リサーチクエスチョンは、科学研究においては重要な土台となるものです。
科学研究の発展に対して、適切なリサーチクエスチョンが大きく貢献してきたことは間違いありません。仮説とリサーチクエスチョンの両輪により、科学黎明期であるルネサンスの時代から継続して実施されてきています。
本記事では、リサーチクエスチョンの特徴や種類、さらには適切な作り方まで詳細に紹介します。
目次
リサーチクエスチョンとは、一体どのようなものなのでしょうか。
現代では、ほとんどすべての領域において、膨大な量の研究が日々発表されています。
それにもかかわらず、その多くは、その影響の及ぶ範囲という観点では、ルネサンスなどの近代科学が勃興した時期などのように、大きな成果をあげていない状況です。ルネサンスやそれ以後の現代科学の発展においては、当時の現状に対する、リサーチクエスチョンや仮説がその発展をいつもささえていたといえます。
翻って、現在の世界や国内の状況をみるとどうでしょうか。あらたな知的好奇心をあつめるような重要な課題がなくなってきていることもあり、リサーチクエスチョンが現代科学の発展に大きく寄与している、とはいえない状況かと思います。
ただ、最近のLLM大規模言語学習モデルによる、AI研究が俄然注目されていますが、これも実は過去(従来の膨大な学習用データ)の遺産に基づくものなのです。特に、LLMは大量の定量データを収集し分析をおこなっていくというシステムにのっとっていますが、データがなければ成果は出てこないというジレンマにあります。当方も科学技術系大学で医療などの分野で、AI深層学習による画像診断技術など、大きな成果を目にしていますが、これも蓄積されたデータ分析や解析によるものとなっています。AI推論の分野も注目されているようですが、これも小数点以下の数値の大小がAI判定できたといったことに今はあるようで、重要な課題に対するリサーチクエスチョン実行というレベルにはなかなか到達していない状況です。
このような状況は、当該分野での研究者たちの同調的な傾向によって生まれてきたともいえなくはありません。単なる先行研究の中に各種のギャップを見出し、その穴埋めをするというようなスタンスでは、いいすぎかもしれませんが、あっと言わせるような研究成果はなかなか出てこないかと存じます。このような観点からも、批判的思考を心がけ、型にはまらない独創的なリサーチクエスチョンを提起していくことの重要性が、現在特に求められているのではないでしょうか。
AI推論研究の例ではないですが、「良いリサーチクエスチョンはそれに対する答えと同じくらいに価値があり、時には答えそれ自体よりも重要である」というレベルに早く到達してほしいものです。
逆に言えば、大学生やあらたな研究者の方々には、良いリサーチクエスチョンを提起すれば、現代でもより価値のある研究が遂行できるという期待が持てるのではないかと思います。これは自然科学が主な分野となりますが、社会科学などの人文系分野でも十分通用することです。
しかしながらこれまで、実践的なリサーチ・クエスチョンについて、また研究に取り組む中でそれをどのように練り上げていくのかについて、十分検討されてきたとは言い難い状況です。このようなリサーチクエスチョンについて、その種類について解説します。リサーチクエスチョンには、大きく分けて、定性的研究と定量的研究があります。
リサーチクエスチョンにおける定性的研究とは、ルネサンス時代の科学勃興期からすでにはじまるものです。
ガリレオやダビンチなどの科学研究における巨人が、実際にそれを使用して、大きな科学的成果を得てきています。両者の共通点としては大きな科学的な業績が挙げられますが、ガリレオは有名な地動説というテーゼがあり、ダビンチでは鳥の飛行に関するアイデアからの仮説や、解剖学的視点からみた構造学的な解析などがあります。
ガリレオは地動説を始めとした天文学的業績、ダビンチはモナリザや最後の晩餐等の美術的業績と、自然科学と人文科学のふたつの分野に貢献がありますが、ダビンチの人体構造学が人物の描写などに大きく影響したことはよく知られています。機械と人の構造について、仮説から始まる深い洞察があったのです。むしろダビンチには、アートとサイエンスの境界のようなものは、なかったのではないでしょうか。
探求的リサーチクエスチョンは、科学の王道ともよべるものとなっています。これはダビンチなどのルネサンス期からはじまる科学的探求には、欠かせなかったものです。
最近、あのビルゲイツ氏が、オークションでダビンチの手帳(手稿)を極めて高価な値段で落札したと報じられています。
手稿をひもとくと、そこには好奇心と驚きに突き動かされたダビンチの問いがちりばめられているということです。たとえば、
「なぜある星は、ほかの星よりもキラキラしているのだろうか?」
「なぜ眠っているときに見る夢のほうが、起きて見る空想よりも鮮明なのだろうか?」
などといった問いが記載されているようです。最初の星の質問は、現代の科学では簡単に回答できますが、ルネサンス期にはまだ地動説の方が主流の時代であり、このような質問をできること自体が、きわめて重要なこととなります。
このような探求的リサーチクエスチョンをするのは、現在は難しいという見方もないわけではないですが、それは科学自体の否定になってしまいます。少なくとも科学研究に携わる研究者では、当然、自身の専門領域でも持ってほしい問いではないでしょうか。
先行研究の中に各種のギャップを見出し、その穴埋めをするというようなギャップ・スポッティング的な研究にならないようにすることが大切です。
予測的リサーチクエスチョンでは、テーマにまつわる予測や将来の結果を得ることを目的としています。
地動説の例で恐縮ですが、「それでも地球は動いている」という帰結になる前には、「地球は動いているのではないだろうか」という予測的な質問があったものと思われます。
探求的リサーチクエスチョンほど、根源的な問いとはなりにくいですが、それでも科学研究の予測の面からも、重要なテーマです。むしろ探求的リサーチクエスチョンより、数多くの予測的な質問が繰り返されて、今日の科学的成果が蓄積されていったということもいえます。
帰結的リサーチクエスチョンとは、予測的リサーチクエスチョンの逆の立場から質問をこころみるものです。ルネサンス期の科学でも、このような問いがあったものと思われます。現代に比べれば、その当時の非常に少ないデータで解析的な仮説を提起できています。地動説が確立したために、その後の天文学の発展や、しいては宇宙の理解がすすんだともいえます。
万有引力の発見には、リンゴが樹から落ちるのをみて、ニュートンが法則を発見したというエピソードがあります。その偉大なところは、その力を一般化し、リンゴの落ち方も、惑星や彗星の運行も同じ法則を用いて、解析的に説明したことです。ニュートン力学ともいわれるこの業績により、古典力学のあらたな地平が切り開かれたのです。
現代の科学分野でも、次の定量的研究とも関連しますが、科学的データを利用して、あらたな知識(=解釈)を得るような、帰結的なリサーチクエスチョンを実施する場面が多くなっています。自分の専門分野でリサーチクエスチョンをしてみることも大切です。
定性的研究と異なり、定量的なリサーチクエスチョンは、古典的な科学成果がだんだん一般的になってから、発展してきた経緯があります。
すなわちある程度の科学的データの蓄積が実施されたあとに、定量的な研究も発展してきたといえます。この最たる成果が、AI研究ともいえ、大規模言語学習法LLMにより、現在主流のChatGPTなどのAIマシーンが開発されています。AI開発では、さらに推論部分の開発が実施されているようですが、まだまだの感があります。一部の推論AIでは、数学的回答が正しかったというレベルで、もてはやされているようですが、人による定性的リサーチクエスチョン、すなわちルネッサンス時代の科学レベルには達していません。
記述的リサーチクエスチョンでは、実験系などのデータ解析において、大量な測定値と変数に基づいて要因を特定したりするものです。統計学的なアプローチも広く用いられています。たとえば、少し前の例になりますが、コロナウイルスが蔓延していたときに、外出率とコロナ感染率などの調査研究がかなり実施されました。この場合では、外出の程度とその際の感染率という変数との関係を調査研究することができます。
コロナの例以外にも、医療やバイオ分野でもこのような手法が広く用いられています。生活習慣と病気などの関係調査にも利用することができます。
なお記述的リサーチクエスチョンは、一部は大規模言語モデルLLMでも同様な手法があります。
比較リサーチクエスチョンも医薬品開発などの医療分野で広く用いられています。こちらも統計学を使用することになりますが、あらたな医薬品を投与したグループと、偽薬をコントロールとして投与したグループで、医薬品の効果があるか、調べるものです。
新規医薬品として、コントロールと比較して有意差のある効果が得られるかどうかが問題となります。このタイプの試験研究は、医療などのバイオ分野のベースともなる研究です。あたらしい医薬品の認証には、このタイプのデータがかかせません。国内では、患者群を2つにわけた実地研究ができにくい(患者が集まらないなど)ので、米国などで試験をおこなう場合が多くなっています。「この医薬品には、投与時に有意性のある有効な効果があるか」などのリサーチクエスチョンは、医薬品検証では重要な課題となります。
リサーチクエスチョンの作り方についても解説します。
あたらしいイノベーションを創造する場合、時に引き合いに出されるのが「アートとサイエンスの領域をクロスオーバーした知識」が科学の発展に寄与するという考え方です。たとえばダビンチは、彼こそが「リベラルアーツ教育の代表的な成功例」だとも言われたりしています。
科学技術系の大学でも、リベラルアーツ研究に関する学部まで設置している教育機関もあります。アートとサイエンスの融合といえば、ダビンチの独壇場ですが、単に融合すればよいわけではありません。当方も勤務していた大学など、自然科学以外にアートや文学の知識を取得すればよいというような考え方もありますが、その歴史を考えてみるべきです。ダビンチの例をみれば、単なる融合というより「優れたリサーチクエスチョン」を作る方が、よほど有効なことになります。もちろん、最低限の文学や歴史は理解した上でのことですが。
リサーチクエスチョンを立てる場合、まずテーマの分野を選定することが大切です。先ほどの新規医薬品開発などでは、当然治療の分野ですが、研究者の場合、たいていは自身の専門分野から取り掛かることが大切です。もちろん、自身には全くあたらしい分野に転身したなどの場合は、その分野でリサーチクエスチョンを作ることになります。場合によっては、以前の分野からの研究蓄積が、あたらしい分野の理解に役立つこともあります。たとえば、素材分野の開発で、物理分野の研究者の視点が、有機化学における新分野の開発に役立ったりすることもあり、従来の研究内容から、あらたなリサーチクエスチョンを作ることも大変助けになります。
テーマ分野がきまったら、最低限の文献レビューを実施することが大切です。すでに当該分野では、そのリサーチクエスチョンには回答が出ていることは、かなりあります。もちろん、その回答が不十分であったり、解釈が違っていることもあるので注意します。先ほどのあらたな素材開発などの例では、よく隣接の分野からの研究者の指摘の方が後で妥当であったことがわかるような場合もあります。
文献レビューでこのテーマには回答がでていないことを確認したら、あらたなリサーチクエスチョン原案を作成します。原案というのは、リサーチクエスチョンを提起してから継続して文献調査をする場合もあるからです。また原案を作成すれば、もし可能なら同じ研究室のメンバーに聞いてみることもできます。当該分野の研究経験がかなりある場合は、有益な示唆があるかもしれません。また原案を作ってから、時間的にインターバルをおいて、自分で振り返って考えてみることも大切です。
原案が作成できたら、次にリサーチクエスチョンを構造化しておきます。すなわち、その実験系の対象や実験方法や実験計画なども概要を設定しておくようにします。先ほどの新規医薬品開発では、その手順が新薬開発上でも規則化されていますので、そのような要素を取り込んだリサーチクエスチョンとなります。
このような構造化要素があらかじめ決まっていない場合は、文献レビューや研究室メンバーからの助言や、さらには自身の想いなども含めて、構造化するようにします。
よくセレンディピティとかいいますが、リサーチクエスチョンを立てる研究者によって、その構造化要素は異なることがあります。むしろあらたな視点が、当該分野のリサーチクエスチョン構造化に有効な場合も多くあります。
文献レビューにより、先行研究の中に各種のギャップを見出し、その穴埋めをするというような研究ではなく、あらたな要素を取り込むことが重要です。
リサーチクエスチョンを構造化したら、いよいよ研究をスタートします。先ほど紹介した帰結的リサーチクエスチョンではないですが、実際に実験してみると当初の予想より異なることがあります。また構造化の段階で不要と思っていた要素が案外重要なこともあり、リサーチクエスチョンを、つねにブラッシュアップしていくことが大切です。もちろん1回だけの実験であきらめるのは、かなり早いですが。
ダビンチの手稿には、下記のようなリサーチクエスチョンもあるようです。
「なぜ眠っているときに見る夢のほうが、起きて見る空想よりも鮮明なのだろうか?」
このような睡眠に関する研究は、最近になってかなり進行していますが、まだ研究開発途上です。現在、上記のようなテーマで実験されている研究者もいるかもしれません。先ほど紹介した天文科学の例以外にもいろいろな探求的リサーチクエスチョンがあるようです。ビルゲイツ氏は、もしかすると、このようなリサーチクエスチョンを収集しているのかもしれません。
こうした問いは、解釈は別としても、正しいリサーチクエスチョンは次の研究につながるということがいえます。是非、適切なリサーチクエスチョンを作って、あらたな研究の地平への展開に役立ててください。
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都内国立大学にて、研究・産学連携コーディネーターを9年間にわたり担当。
大学の知財関連の研究支援を担当し、特にバイオ関連技術(有機化学から微生物、植物、バイオ医薬品など広範囲に担当)について、国内外多数の特許出願を支援した。大学の先生や関連企業によりそった研究評価をモットーとして、研究計画の構成から始まり、研究論文や公募研究への展開などを担当した。また日本医療研究開発機構AMEDや科学技術振興機構JSTやNEDOなどの各種大型公募研究を獲得している。
名古屋大学大学院(食品工業化学専攻)終了後、大手食品メーカーにて31年間勤務した経験もあり、自身の専門範囲である発酵・培養技術において、国家資格の技術士(生物工学)資格を取得している。国産初の大規模バイオエタノール工場の基本設計などの経験もあり、バイオ分野の研究・技術開発を得意としている。
学位・資格
博士(生物科学):筑波大学にて1994年取得
技術士(生物工学部門);1996年取得