論文やレポートの執筆に行き詰まりを感じていませんか? 査読付き論文は、時間と手間がかかり、なかなか成果を世界に発信できません。そこで、近年注目されているのが「プレプリント」です。プレプリントは、査読プロセスを経ずに研究成果を公開できるので、研究のスピードと透明性を向上させる強力なツールです。しかし、その活用には適切な理解と戦略が不可欠です。本記事では、プレプリントのメリット・デメリットから注意点、主要な投稿先サーバーまで徹底解説します! 研究成果を素早く共有し、研究を加速させたい研究者や学生必見の内容です。
目次
代替テキスト プレプリントの基本:定義と学術界における役割
プレプリントとは、一言でいうと 「査読前の論文をオンライン上で公開するシステム」 のこと。 まるで研究者のブログのように、まだ論文として正式に認められていない研究成果をいち早く公開し、共有できます。
一方、私たちが普段「論文」と呼んでいるものは、専門家による査読を経て、学術雑誌に掲載されたものです。 この査読プロセスは、論文の質を担保するためにとても重要ですが、時間がかかるのが難点です。
プレプリントと論文の違いを、投稿から公開までの流れに沿ってまとめてみましょう。
プレプリントは、従来の論文出版の仕組みに比べて、はるかにスピーディーに研究成果を公開できる点が最大の特徴です。 例えば、Jxivという日本のプレプリントサーバーでは、申請から48時間以内に論文を公開できます。
新型コロナウイルスの研究では、パンデミック発生から10ヶ月で公開された125,000本の研究のうち、30,000本がプレプリントでした。緊急性の高い研究成果を迅速に共有する必要があったからです。
プレプリントを活用すれば、数ヶ月かかっていた論文公開が数日になります。他の研究者からすぐにフィードバックをもらえるので、研究の質を高めることができるのです。さらに、プレプリントにはDOIが付与されるので、研究の優先権も確保できます。
プレプリントは研究成果の迅速な共有と、研究の質向上を両立させる強力なツールなのです。
近年、研究者たちの間でプレプリントが注目されているのは、従来の論文出版にはない、研究のスピードアップと透明性の向上というメリットがあるからです。
特に、時間と手間がかかる査読を待つことなく、研究成果をいち早く世界に発信できる点が、多くの研究者にとって魅力的です。
プレプリントの主なメリットには、次のような点があります。
このように、プレプリントは、従来の論文出版の仕組みに比べて、スピーディーに研究成果を公開し、世界中の研究者と交流する機会を提供してくれる、新しい情報発信の手段として注目されています。
プレプリントは、研究者が自身の研究成果をいち早く公開し、世界中の研究者と共有するための オープンなプラットフォームとしての役割 を担っています。 従来の論文出版のように、査読や出版までの長いプロセスを経ることなく、研究者は自分のペースで情報を発信し、フィードバックを得ながら研究を進めることができます。
プレプリントの歴史は意外と古く、1960年代にはすでに物理学の分野で、最新の研究成果を共有するために印刷物として利用されていました。
プレプリントの歴史における大きな転換点となったのは、1991年にコーネル大学の物理学者ポール・ギンスパーグが設立した 世界初の現代的なプレプリントサーバー「arXiv」 です。 arXivにより、研究者はオンライン上で簡単にプレプリントを公開・検索・ダウンロードできるようになり、世界中の研究者との情報共有が飛躍的に進展しました。
近年では、arXivの成功に触発され、医学・生物学・化学など、様々な分野でプレプリントサーバーが設立されています。以下のような例があります。
このように、プレプリントは、学術情報流通のスピードを加速させ、研究者同士の活発な情報交換を促進するツールとして、ますますその重要性を増しています。
代替テキスト プレプリント公開のメリット:スピード、可視性、フィードバック
プレプリントの投稿は、想像以上にシンプルです。 論文投稿の経験がある人なら、スムーズに手続きを進めることができるでしょう。 以下に、一般的なプレプリント投稿の手順を紹介します。
プレプリントサーバーに投稿する際は、論文としては未完成であることを踏まえ、読者からのフィードバックを積極的に受け入れる姿勢が大切です。また、共著者全員の同意を得ることも忘れずに。投稿後は、TwitterなどのSNSで共有して注目を集めるのも効果的です。
プレプリントの一番の魅力は、何と言ってもそのスピードです。従来の査読付きジャーナルでは、投稿から掲載まで数ヶ月から1年以上かかることも珍しくありません。一方、プレプリントサーバーを使えば、わずか数日で研究成果を公開できます。
例えば、Jxivでは申請から48時間以内に論文を公開できます。
これは、次のような場合に特に大きなメリットとなります。
実際の例として、2020年1月、中国の研究者らが新型コロナウイルスのゲノム配列を解読し、1月23日にbioRxivにプレプリントとして公開しました。この論文はわずか11日後の2月3日にNature誌に掲載されましたが、プレプリントの公開によって、世界中の研究者がいち早くこの重要な情報にアクセスでき、診断キットやワクチン開発の基礎となりました (出典:Wu, F., et al. Nature 579, 265–269 (2020))。
このように、プレプリントを活用すれば、自分の研究成果をほぼリアルタイムで世界に発信できます。特に、急速に進展する分野や社会的影響の大きいテーマでは、この迅速さが極めて重要になるのです。
プレプリントの魅力の一つは、限られた査読者からの意見だけでなく、世界中の研究者から幅広くフィードバックを得られることです。 従来の査読プロセスでは限られた専門家からのコメントしか得られず、他の研究者と議論する機会は限られていました。
しかし、プレプリントサーバーでは、論文に対して誰でもコメントを投稿できる ようになっていることが多く、活発な意見交換が期待できます。 例えば、Preprints.orgでは、論文に対してコメントや評価を投稿できる機能が用意されています。
このオープンな環境がもたらす利点は主に4つあります。
特に、若手研究者にとっては、経験豊富な研究者から直接意見をもらえる貴重な機会となるでしょう。
ある研究者がプレプリントを投稿したところ、わずか2ヶ月で1,500回以上も閲覧され、有益なフィードバックが得られたという例もあります。
プレプリントは、時間のかかる査読を受ける前に論文を公開するため、自分の研究成果をいち早く世界に発信し、 先取権を確保できるだけでなく、透明性向上というメリットも得られます。
プレプリントサーバーに論文をアップロードすると、論文にはタイムスタンプが付与され、それが 世界に向けて公開された日時を証明する記録 となります。 これは、後から同じような研究成果が発表された場合でも、自分が先にそのアイデアを思いつき、研究を進めていたことを示す証拠となります。
また、プレプリントには、研究内容の詳細を公開することで、 研究の透明性を高める効果もあります。 従来の論文出版のように、査読者や編集者のみが論文の内容を把握できるクローズドな環境ではなく、誰でも自由に論文の内容を確認できるオープンな環境を作ることで、研究の信頼性を高めることができるのです。
このように、プレプリントを活用することで、自分の研究成果を守りつつ、オープンサイエンスの推進にも貢献できるのです。
代替テキスト プレプリント公開の注意点:倫理、査読、ジャーナルの規定
プレプリントサーバーに投稿された論文は、まだ査読を受けていない、いわば「未完成」の状態であることを理解しておきましょう。 査読とは、論文が専門誌に掲載される前に、同分野の研究者による厳正なチェックを受けるプロセスです。このプロセスを経て、論文の内容の信頼性や質が担保されます。
しかし、プレプリントは査読前の論文であるため、以下の点に注意が必要です:
例えば、医学分野のプレプリントサーバーであるmedRxivでは、掲載されたプレプリントを誤用したり、誤って解釈したりしないよう、読者に注意喚起しています。
プレプリントを読む際には、これらの点を念頭に置き、批判的に内容を吟味する必要があります。
2020年に発生したCOVID-19パンデミック初期には、多くのプレプリントが公開されました。しかし、その中には後に撤回されたものもありました。具体的には、ヒドロキシクロロキンの有効性を主張したプレプリントが、データの信頼性に問題があるとして撤回された事例があります。
このような事例は、プレプリントの内容を無批判に受け入れることの危険性を示しています。研究者は、プレプリントを参照する際には、その内容を慎重に評価し、可能であれば他の研究結果と照らし合わせて検証することが求められます。
プレプリントは研究の迅速な共有に有用ですが、同時に査読前の論文であることを常に意識し、適切に扱うことが重要です。
プレプリントは誰でも自由に閲覧できるため、公開前に倫理的な側面を十分に確認することが重要です。 これは、研究の信頼性を担保するだけでなく、研究対象者や関係者への配慮という倫理的な観点からも非常に重要です。
具体的には、以下の点を確認しましょう。
特に人を対象とする研究では、倫理審査委員会の承認が不可欠です。厚生労働省の「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」では、研究対象者の自由意思に基づく同意の重要性が強調されています。
プレプリント公開前に、これらの倫理的側面を慎重に検討し、必要な承認を得ることで、研究の信頼性と社会的責任を確保できます。
プレプリントを公開する際には、投稿を予定しているジャーナルの規定を必ず確認しましょう。ジャーナルによっては、プレプリントサーバーでの公開を禁止している場合や、一定の条件を設けている場合があります。
ジャーナルの規定を確認する際は、以下の点に注意しましょう。
例えば、Natureは以前はプレプリントを事前掲載とみなし、投稿原稿として受け付けていませんでした。しかし、現在ではプレプリントを奨励するまでに方針を変更しています。一方で、全てのジャーナルがプレプリントを受け入れているわけではありません。
プレプリントの公開が原因で、論文がジャーナルに掲載されなくなるという事態は避けなければなりません。事前に投稿規定をよく読み、不明な点があれば、ジャーナル編集部に問い合わせて確認するようにしましょう。
代替テキスト 主要なプレプリント・サーバーと選び方:分野、地域、言語
プレプリントサーバーを選ぶ際には、自分の専門分野に特化したサーバーを選びましょう。なぜなら、同じ分野の研究者からの注目を集めやすくなるだけでなく、その分野特有の投稿規定や慣習に沿った形で論文を公開できるからです。
主要な分野別のサーバーを以下に紹介します。
これらのサーバーは、それぞれの分野の特性に合わせて設計されており、適切なサーバーを選択することで、研究成果の可視性と影響力を最大化できます。自分の研究分野に最適なサーバーを選び、世界中の研究者との情報共有を促進しましょう。
Jxivは、日本の科学技術振興機構(JST)が2022年3月に開設した、日本初のプレプリントサーバーです。 Jxivは、分野を問わず、医学、化学、物理学、生命科学から人文学、学際研究まで、幅広いジャンルの論文を投稿できます。
Jxivを利用するメリットとしては、以下の点が挙げられます。
Jxivは、日本の研究者にとって言語の壁を低くし、研究成果の迅速な共有の促進を目的としています。また、文部科学省は、日本固有の強みや文化に根ざしたコンテンツを英語で発信することも重要だと報告しています。
Jxivの利用には、researchmapへの登録またはORCID IDの保有が条件となります。投稿されたプレプリントは専門家による査読は行われませんが、JSTによる審査を経て公開されます。
Jxivの登場により、日本の研究者がプレプリントを通じて研究成果を迅速に共有し、国内外の研究コミュニティとの交流を促進することが期待されています。
適切なプレプリントサーバーの選択は、研究成果の効果的な発信やその後の論文投稿戦略において非常に重要です。 単に論文の公開だけを目指すのではなく、サーバーの特性を理解した上で投稿先を選びましょう。
適切なサーバーを選ぶためのポイントは以下の通りです。
適切なサーバーを選んで、研究成果の可視性と影響力を最大化しましょう。
プレプリントは、研究成果を迅速に共有し、フィードバックを得る強力なツールとして、現代の学術界で重要な役割を果たしています。本記事では、プレプリントの定義、メリット、注意点、そして主要な投稿先サーバーについて解説しました。
プレプリントを活用することで、研究者は自身の成果を素早く公開し、先取権を確保しつつ、幅広い研究者からのフィードバックを得られます。しかし、倫理的配慮や目標ジャーナルの規定確認など、注意すべき点もあります。
適切なプレプリントサーバーを選択し、慎重に利用することで、研究の可視性と影響力を高めることができます。日本の研究者にとっては、Jxivも有力な選択肢となるでしょう。
プレプリントは学術コミュニケーションの新たな形として、今後さらに重要性を増していきます。メリット・デメリットを理解した上で、プレプリントを戦略的に活用してください。
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東大応用物理学科卒業後、ソニー情報処理研究所にて、CD、AI、スペクトラム拡散などの研究開発に従事。
MIT電子工学・コンピュータサイエンスPh.D取得。光通信分野。
ノーテルネットワークス VP、VLSI Technology 日本法人社長、シーメンスKK VPなどを歴任。最近はハイテク・スタートアップの経営支援のかたわら、web3xAI分野を自ら研究。
元金沢大学客員教授。著書2冊。
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