学術論文執筆にあたり、イントロダクションの書き方に悩んでいる方はいませんか?せっかく研究成果をまとめた論文も、読者の心を掴む魅力的なイントロダクションがなければ、その価値は半減してしまいます。論文の顔ともいえるイントロダクションは、研究の背景や目的を明確に示し、読者の興味関心を惹きつける重要な役割を担っています。
本記事では、論文のイントロダクションの意味と役割、アブストラクトとの違いについて解説し、読者の心を掴む魅力的なイントロダクション作成のヒントと注意すべきポイントを徹底解説します。最後まで読んで質の高い論文執筆に役立てましょう。
目次
代替テキスト イントロダクションの基本的な意味と役割
論文のイントロダクションは、読者がその論文を読み進めるかどうかを決定づける、いわば「論文の顔」ともいえる序章です。効果的なイントロダクションは以下の要素を含むことで読者を惹きつけ、論文の価値の理解を促進します。
例えば、Nature誌に掲載された2019年のノーベル生理学・医学賞受賞研究の論文では、冒頭で「低酸素環境への適応メカニズムの重要性」を強調し、続いて「未解明の分子機構」について言及することで、読者の興味を喚起しています。このように、研究の意義と新規性を適切に提示することが、読者を惹きつける序章の鍵となります。
(参考文献: Semenza, G. L., & Wang, G. L. (1992). A nuclear factor induced by hypoxia via de novo protein synthesis binds to the human erythropoietin gene enhancer at a site required for transcriptional activation. Molecular and cellular biology, 12(12), 5447-5454.)
その上で、
を明確に示しましょう。 読者はこれらの情報を基に、論文を読み進める価値があるかどうかを判断します。 つまり、イントロダクションは、読者の心を掴む「フック」としての役割を果たすと同時に、論文全体の導入として、その後の議論の土台を築く重要な役割を担っているのです。
イントロダクションで、研究の背景と目的を明確に示すことで、読者に、その研究がどのような学問分野の、どのような問題意識に基づいて行われたのかを理解してもらいます。
研究背景を説明する際には、その研究分野における先行研究の知見と現在の知見の限界を明らかにした上で、取り組もうとしている未解決の問題を具体的に示します。それにより、読者はその研究の位置付けや新規性を理解できます。
例えば、リチウムイオン電池に関する論文であれば、「リチウムイオン電池の需要が高まっており、その性能や寿命を予測する信頼性の高い手法が求められている」といった背景説明が考えられます。
次に、研究の目的を明確に示します。
このように構成されたイントロダクションは、研究の位置づけを明らかにし、読者に「なぜこの研究が行われたのか」「何を明らかにしようとしているのか」を理解させます。結果として、読者は研究の意義を正確に把握し、論文全体への理解を深めることができるのです。
イントロダクションでは、その研究の意義と貢献を明確に示すことで、読者は「なぜこの研究を読むべきなのか」を理解します。
研究の意義を示すには、その研究が学術界や社会全体にどのような影響を与える可能性があるのかを説明します。例えば、医療分野の研究であれば、新しい治療法の開発や既存の治療法の改善につながる可能性を、環境問題に関する研究であれば、地球温暖化の抑制や生態系の保全に貢献できる可能性を具体的に示します。
さらに、イントロダクションでは、その研究が先行研究をどのように発展させるのか、どのような新しい知見を提供するのかを明確にすることで、学術的な貢献を伝える必要があります。
例えば、Nature誌に掲載されたAlphaFoldに関する論文(Jumper et al., 2021)では、イントロダクションでタンパク質構造予測の重要性と既存手法の限界を説明し、新手法の潜在的影響を明確に示しています。
このように構成されたイントロダクションは、研究が学術界や社会にもたらす価値を明確に伝えます。読者は「この研究がなぜ重要なのか」「どのような新しい知見や方法論をもたらすのか」を理解し、論文全体への興味を深めることができます。つまり、イントロダクションは研究の意義と貢献を伝えることで、論文の学術的価値を確立する重要な役割を担うのです。
代替テキスト イントロダクションとアブストラクトの違い
アブストラクトは、論文の内容を簡潔に要約したもので、読者が論文全体を読むべきかどうかを判断するための重要な要素です。多くの場合、タイトルと共に検索結果に表示されます。
一般的に200〜300語程度で構成され、以下の要素を含みます:
アブストラクトは、論文の冒頭に配置され、読者が短時間で論文の内容を把握できるように、簡潔で明瞭な文章で記述する必要があります。多くのジャーナルは、アブストラクトに単語数制限を設けています。 例えば、あるジャーナルではアブストラクトの単語数を200〜300語に制限しています。 アブストラクトは論文の内容を正確に要約したものになるように、本文を書き終えた後に作成することが推奨されます。
イントロダクションとアブストラクトは、どちらも論文の重要な部分を占めますが、その目的は大きく異なります。
アブストラクトの目的は、論文の内容を 簡潔に要約 し、読者がその論文を 読むべきかどうかを判断するための情報 を提供することです。そのため、アブストラクトは論文の内容を網羅的に、かつ可能な限り簡潔に記述する必要があります。
一方、イントロダクションの目的は、読者を 研究の内容に引き込み、論文を読み進めてもらう ことです。そのため、イントロダクションでは、研究の背景や目的、意義などを より詳しく説明 し、読者の興味関心を高める必要があり、分量も論文全体の10%〜15%とされています。
つまり、アブストラクトは「 論文の要約 」であり、イントロダクションは「 論文の導入 」という役割の違いがあります。
以下に両者の違いを表にしたものを示します。
特徴 | イントロダクション | アブストラクト |
目的 | 研究の背景と意義を詳細に説明し、読者の興味を喚起する | 研究の全体像を簡潔に要約し、論文の重要性を迅速に伝える |
長さ | 通常、複数段落(数百〜数千語)で論文全体の10~15% | 一般的に200〜300語程度 |
位置 | 論文の冒頭(アブストラクトの後) | 論文の最初(タイトルの直後) |
研究結果の提示 | 通常、結果の詳細は含まない(方法と結果のセクションで詳述) | 主要な結果を簡潔に要約して含む |
内容の詳細さ | 研究背景、先行研究、問題提起などを詳細に説明 | 研究の主要ポイントのみを簡潔に記述 |
引用 | 先行研究の引用を含む | 通常、引用は含まない |
時制 | 主に現在形(一部、過去形も使用) | 主に過去形(結論部分は現在形も可) |
読者への効果 | 研究の文脈を理解させ、本文を読む動機を与える | 論文の重要性を迅速に判断させる |
構造 | より自由度が高く、分野や研究内容により可変的 | より構造化されており、一定の形式に従う傾向がある |
このように、イントロダクションとアブストラクトは、その目的と役割が異なるため、それぞれに適した構成と内容で記述する必要があります。
イントロダクションとアブストラクトは、論文の構造において異なる位置づけと役割を持ちます。この違いを理解することは、効果的な論文執筆と読解に不可欠です。両者の論文全体における位置づけは以下のように特徴づけられます:
例えば、日本化学会の「Chemistry Letters」誌の投稿規定では、アブストラクトは100語以内で論文の前に配置し、イントロダクションは本文の最初のセクションとして詳細な説明を求めています。
このように、アブストラクトは読者が論文の概要を素早く把握するための独立したツールとして機能し、イントロダクションは研究の文脈を深く理解するための基礎を提供します。両者は相互に補完し合い、論文全体の理解を促進する重要な要素として位置づけられているのです。
代替テキスト 効果的なイントロダクションの執筆方法
効果的なイントロダクションの執筆には、先行研究のレビューと適切な引用は欠かせません。
まず、関連する先行研究を適切にレビューすることで、読者に論文の背景や文脈を理解してもらうことができます。 過去の研究で何が明らかになっており、どのような問題が残されているのかを示すことで、自分の研究の位置づけを明確にしましょう。
先行研究をレビューする際には、単に羅列するのではなく、それぞれの研究の貢献や限界点を明確に示し、それらを比較検討することで、自分の研究の独自性や新規性を浮かび上がらせるように心がけましょう。 例えば、「過去の研究では~という点が未解明であったが、本研究では…に着目することで、この問題に新たな知見を与えるものである。」といったように、先行研究との比較を明確に示すことが重要です。
また、先行研究を引用する際は、剽窃を避けるために、適切な引用方法に従う必要があります。 一般的には、引用箇所を「引用文」の形で括弧で囲み、文末に参考文献リストの番号を記載する形式が用いられます。
引用する文献は、論文の主題に関連性の高いものを厳選し、最新の研究成果を反映しているものを選ぶように心がけましょう。
イントロダクションでは、研究の背景や先行研究との関連性を示すだけでなく、あなたの研究の新規性と学術的貢献を明確に示すことが重要です。 読者は、その研究が「なぜ重要なのか」、「どのような新しい知見を提供するのか」を理解する必要があります。
新規性を示すためには、以下の点を意識しましょう。
これらの点を明確にすることで、読者にあなたの研究の独自性と価値を理解してもらうことができます。
学術的貢献を明確化するためには、本研究によって得られた知見が、学術界にどのような影響を与えるのかを具体的に示すことが重要です。 例えば、
などが考えられます。
例えば、Science誌に掲載されたCRISPR-Cas9システムの論文(Jinek et al., 2012)では、イントロダクションで既存の遺伝子編集技術の限界を指摘し、新技術がもたらす革新的な可能性を明確に示しています。
イントロダクションで研究の新規性と学術的貢献を明確に示すことで、読者の興味関心を高め、論文を読み進めてもらうための説得力を高めることができます。
読者の関心を惹きつけ、論文を読み進めてもらうためには、導入部の書き方が大事です。効果的なイントロダクションの導入部を作成するには、以下の3点を意識しましょう。
これらの点を踏まえ、読者の興味関心を高める導入部を作成することで、論文全体の説得力を高めることができます。ただし、導入部を魅力的にする一方で、学術的な厳密さを維持することも重要です。誇張した表現や過度に感情的な言葉は避け、客観的かつ説得力のある導入を心がけましょう。
このバランスを取ることで、読者の興味を引きつつ、研究の信頼性を損なわない効果的な導入部を作成することができます。
代替テキスト イントロダクション作成時の注意点
イントロダクションは論文の冒頭であり、読者が最初に目にする部分であるため、簡潔で明瞭な文章で書きましょう。 読みやすさに配慮し、簡潔で要点を絞った表現を用いることで、読者が論文の内容をスムーズに理解できるようになります。
具体的には、以下の点に注意することが重要です。
例えば、「イントロダクションは、本文の最初の部分であり、論文全体の内容を理解するために必要とされる予備知識を提供する部分です」では、論文の導入部分であるイントロダクションを簡潔に説明しています。
このように、簡潔で明瞭な文章は、読者の理解を深めるだけでなく、研究の核心をより効果的に伝える役割も果たします。不必要な冗長性を排除し、的確な表現を選択することで、イントロダクションの説得力と読みやすさが向上し、論文全体の質を高めることができるのです。
学術論文では、専門用語を用いることが不可欠ですが、イントロダクションは、その分野の専門家ではない読者も目を通す可能性があります。そのため、使用する専門用語は、読者層を考慮し、適切な選択をする必要があります。
具体的には、以下の2点を意識しましょう。
重要なのは、読者の専門知識レベルを想定し、適切なバランスを保つことです。 例えば、Nature誌に掲載された量子コンピューティングに関する論文(Arute et al., 2019)では、高度な概念を説明する際に、専門家向けの詳細な記述と一般読者向けの平易な説明を巧みに組み合わせています。
このように、適切な専門用語の使用は、研究の専門性を維持しつつ、幅広い読者層の理解を促進する重要な役割を果たします。読者の背景知識を考慮し、必要に応じて補足説明を加えることで、イントロダクションの効果を最大化し、研究内容の正確な伝達を実現することができるのです。
イントロダクションは論文の顔とも言える重要な部分ですが、論文全体の構成や論旨をしっかりと把握してから執筆した方が、より効果的なイントロダクションを作成できます。そのため、論文を完成させてからイントロダクションを執筆する方法が有効だとされています。
論文完成後にイントロダクションを執筆するメリットとしては:
などが挙げられます。
論文の骨格を書き上げてからでないとイントロダクションの内容を確定させることが難しい場合などは、一番最後に執筆するのがベストでしょう。
例えば、臨床研究論文作成マニュアルでは、イントロダクションを「なぜこの研究が大事なのか」「この研究領域においてわかっていることとわかっていないこと」「研究の仮説と目的」の三部構成で書くことを推奨しています。これらの要素を適切に組み込むためには、研究全体を俯瞰できる論文完成後の執筆が効果的です。
研究の全体像を把握した上でイントロダクションを執筆することで、読者の興味を引きつつ、論文全体の構造と一貫性を保つことが可能となります。結果として、研究の意義をより明確に伝え、読者の理解を促進する効果的なイントロダクションを作成することができるのです。
イントロダクションの意味や役割、アブストラクトとの違いについて理解を深めていただけたでしょうか。本記事では、イントロダクションの基本的な意味と役割、アブストラクトとの相違点、効果的な執筆方法、そして注意点について詳しく解説しました。
イントロダクションは論文の顔であり、研究の背景や目的を明確に示す重要な部分です。アブストラクトとは異なり、より詳細な情報を提供し、読者を本文へと導く役割を果たします。簡潔で明瞭な文章、適切な専門用語の使用、そして論文完成後の執筆など、効果的なイントロダクション作成のポイントを押さえることで、より質の高い論文を執筆することができるでしょう。
これらの知識を活かし、自信を持って論文執筆に取り組んでください。皆様の研究が学術界に新たな知見をもたらすことを期待しています。
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東大応用物理学科卒業後、ソニー情報処理研究所にて、CD、AI、スペクトラム拡散などの研究開発に従事。
MIT電子工学・コンピュータサイエンスPh.D取得。光通信分野。
ノーテルネットワークス VP、VLSI Technology 日本法人社長、シーメンスKK VPなどを歴任。最近はハイテク・スタートアップの経営支援のかたわら、web3xAI分野を自ら研究。
元金沢大学客員教授。著書2冊。