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英語論文の文中引用ルール:失敗しない正しい書き方と参考文献の基礎

2025/12/29
研究・論文

英語論文の執筆において、多くの日本人研究者が頭を抱えるのが「引用」の複雑なルールです。「et al.にはピリオドが必要?」「カンマの位置は?」といった些細な迷いが、執筆の手を止めさせていませんか?

引用は単なる形式ではなく、研究の信頼性を担保する重要な作法です。本記事では、APAやMLAといった主要スタイルの最新ルールに基づき、文中引用から参考文献リストの作成まで、失敗しないためのポイントを徹底解説します。

英語論文における引用の基礎ルールと重要性

英語論文における引用の基礎ルールと重要性

なぜ引用ルールを守る必要があるのか(剽窃リスクの回避)

英語論文において引用ルールを遵守することは、研究者としての倫理を守り、致命的な「剽窃(Plagiarism)」のリスクを回避するために不可欠です。剽窃とは、他者のアイデア、データ、文章を適切なクレジットなしに使用する行為を指し、学術界では最も重い不正行為の一つとみなされます。

引用を行う根本的な理由は、先人の知見(巨人の肩)に対する敬意を示し、自分の主張の根拠を明確にするためです。適切な引用は、読者が元の情報源を辿り、事実を確認するための「道しるべ」としての役割も果たします。もし引用を怠れば、たとえ悪意がなくても「盗用」と判断され、論文の撤回やキャリアへの深刻なダメージにつながりかねません。

特に、英語を母語としない研究者が陥りやすいのが「パッチライティング(Patchwriting)」です。これは、元の英文の構造を残したまま単語だけを入れ替えて自分の文章のように見せる行為で、これも剽窃の一種とみなされます。

立命館大学のガイドラインでも、他者の文章や意見を自分のものとして用いることは「自身の信用を失う行為」であると強く警告しています。したがって、他者の研究成果を利用する際は、必ず引用元を明記しなければなりません。

具体的には、引用符を使って「直接引用」するか、自分の言葉で完全に書き換える「パラフレーズ」を行い、出典を記載します。これにより、研究の独自性と先行研究への依存関係が明確になり、論文の信頼性が高まります。引用は単なる形式的な手続きではなく、学術的な対話に参加するためのパスポートなのです。

引用の2つの主要方式:著者名・年号方式と引用順方式の違い

学術論文の引用スタイルには数多くの種類がありますが、その基本構造は大きく分けて「著者名・年号方式(Author-Date System)」と「引用順方式(Citation-Sequence System)」の2つに分類されます。投稿するジャーナルや分野によって採用される方式が異なるため、この違いを理解しておくことが重要です。

まず、「著者名・年号方式」は、心理学や社会科学分野でよく使われるAPAスタイルやハーバード方式が代表例です。この方式では、文中の引用箇所に著者の姓と出版年を (Smith, 2023) のように記述します。

最大のメリットは、読者が本文を読みながら「誰が」「いつ」発表した研究なのかを即座に把握できる点です。研究の歴史的背景や最新性が重視される分野で好まれます。参考文献リストは、引用順ではなく著者名のアルファベット順に並べられます。

一方、「引用順方式」は、医学や自然科学分野で多用されるバンクーバー方式やIEEEスタイルが該当します。文中には (1) や上付きの数字 ¹ などの番号を振り、巻末の参考文献リストでその番号順に文献を列挙します。この方式の利点は、本文中に長い著者名や年号が入らないため、文章がすっきりと読みやすくなることです。特に、一つの文に対して多数の文献を引用する場合にスペースを節約できます。

以下の表に、両者の主な違いをまとめました。

特徴著者名・年号方式 (ハーバード方式など)引用順方式 (バンクーバー方式など)
文中表記著者名と出版年
例: (Tanaka, 2020)
数字・連番
例: 1 または (1)
リスト順序著者名のアルファベット順本文での出現順(番号順)
主な分野社会科学、心理学、生物学の一部医学、工学、化学、物理学
メリット研究者と時期が即座にわかる本文が読みやすく、邪魔にならない

自分の専門分野がどちらの方式を採用しているかを確認し、それに従った形式で執筆を進めることが、論文受理への第一歩となります。

直接引用と間接引用の違いと使い分けの基準

引用には、元の文章をそのまま抜き出す「直接引用(Direct Quotation)」と、自分の言葉で要約・言い換えを行う「間接引用(Indirect Quotation / Paraphrasing)」の2種類があります。これらを適切に使い分けることは、論文の質を高める上で非常に重要です。

直接引用は、原文を一字一句変えずに引用符(“ ”)で囲んで記述する方法です。これは、定義を正確に伝えたい場合や、著者の独特な表現そのものに価値がある場合、あるいは分析対象としてテキストを扱う場合に使用します。例えば、文学研究で作品の一節を引用する場合などがこれに当たります。また、議論の対象となる主張を正確に提示して反論する場合にも有効です。ただし、多用しすぎると「自分の言葉で説明できていない」とみなされ、論文の評価を下げる原因になります。

一方、間接引用(パラフレーズ)は、元のアイデアやデータを理解した上で、自分の論文の文脈に合わせて言葉や構造を完全に書き換える方法です。理系や社会科学系の論文では、この間接引用が推奨されます。なぜなら、パラフレーズは著者が先行研究を深く理解し、消化していることの証明になるからです。複数の研究結果を統合して(synthesis)議論を展開する場合も、間接引用が適しています。

使い分けの基準として、以下の点を意識してください。

  • 正確性が最優先の場合: 定義や法律の条文、歴史的な発言などは直接引用
  • 情報の統合が必要な場合: 研究結果の要約や、複数の文献の比較などは間接引用
  • 分量の調整: 原文が長すぎる場合は要約(間接引用)し、特定のフレーズだけが重要な場合はその部分だけを直接引用する。

どちらの場合も、必ず出典(著者名、年号、直接引用の場合はページ番号)を明記する必要があります。特に直接引用では、スペルミスも含めて原文通りに書き写し、間違いがある場合は [sic] を用いて示すという厳密なルールがあることも覚えておきましょう。

失敗しないための「文中引用(In-Text Citation)」の正しい書き方

失敗しないための「文中引用(In-Text Citation)」の正しい書き方

著者数別の表記ルール(単著、共著、et al.の使用基準)

文中引用において最もミスが起きやすいのが、著者の人数に応じた表記ルールの使い分けです。特に、3名以上の著者がいる場合に使用される「et al.」の扱いは、引用スタイル(APA、MLAなど)やその版によって規定が異なるため注意が必要です。

ここでは、現在多くのジャーナルで採用されているAPAスタイル(第7版)とMLAスタイル(第9版)を中心に解説します。

まず、著者が1名(単著)の場合はシンプルです。常に著者の姓と出版年(APA)またはページ数(MLA)を記述します。

  • 例(APA): (Smith, 2023)

著者が2名の場合、両方の姓を常に記述します。重要なのは、括弧内と文中で接続詞を使い分ける点です。APAスタイルでは、括弧内ではアンパサンド & を使い、文中のナラティブな引用では and を使います。

  • 例(括弧内): (Wegener & Petty, 1994)
  • 例(文中): Wegener and Petty (1994) found that…

そして、著者が3名以上の場合です。APA第7版では、初回の引用から第一著者の姓に続けて et al. を使用します(第6版では初回のみ全員列記というルールがありましたが変更されました)。MLA第9版でも同様に、3名以上の場合は et al. を使用します。

  • 例: (Kernis et al., 1993)

et al. の正しい書き方

日本人研究者がよく間違えるのがピリオドの位置です。et はラテン語の “and” にあたるためピリオドは不要ですが、al は “alii”(others)の略語なので必ずピリオドが必要です。

  • 正: et al.
  • 誤: et. al., et al, et-al

また、文末以外で使う場合、al. の後ろのピリオドは文の終わりを意味しないため、続けて文章を書くことができます。ただし、APAスタイルでは出版年を続ける場合、et al. の後にカンマを打ちます(例: Smith et al., 2020)。

引用箇所を文末に置く場合と、文中に著者名を含める場合の記述法

文中引用には、大きく分けて「親引用(Parenthetical Citation)」と「ナラティブ引用(Narrative Citation)」の2つの配置パターンがあります。これらを効果的に使い分けることで、文章のリズムを整え、強調したいポイントを操作することができます。

1. 親引用(文末に置く場合)

これは、引用情報のすべてを括弧内に収め、通常は文の最後(ピリオドの前)に配置する方法です。研究結果や事実そのものを強調したい場合に適しています。

  • 記述法: 文末に (Author, Year) を置きます。著者が複数の場合は & でつなぎます。
  • : Recent research has shown that sleep deprivation affects cognitive performance (Smith & Jones, 2022).
  • 注意点: 文末のピリオドは、括弧の後ろに打ちます。括弧の中にピリオドを入れてはいけません。

2. ナラティブ引用(文中に著者名を含める場合)

これは、著者名を主語や目的語として文章の一部に組み込み、出版年のみを括弧書きにする方法です。「誰が」その主張をしたのかを強調したい場合や、研究の流れを時系列で説明する場合に適しています。

  • 記述法: 文中で著者名を出し、その直後に (Year) を置きます。接続詞は and を使います。
  • : Smith and Jones (2022) argued that sleep deprivation…
  • 動詞の時制: APAスタイルでは、過去形(found, argued)や現在完了形(have shown)が好まれますが、分野によっては現在形(suggests)を使う場合もあります。

複数の文献を同時に引用する場合

ある主張が複数の研究で支持されていることを示すために、文末の括弧内に複数の文献を並べることがあります。この場合、第一著者のアルファベット順に並べ、セミコロン ; で区切ります。

  • : (Adams, 2019; Brown & Miller, 2020; Smith et al., 2018)
  • 年代順ではない点に注意が必要です。ただし、同一著者の複数文献の場合は年代順(古い順)に並べます(例: (Smith, 2018, 2020))。

直接引用時のページ数表記(p. vs pp. の使い分けと注意点)

直接引用(原文をそのまま抜き出す引用)を行う場合、読者がその箇所を原典から正確に特定できるよう、必ずページ番号を明記しなければなりません。一方、パラフレーズ(要約)の場合は必須ではありませんが、長い書籍の一部を参照する場合などは推奨されることがあります。ページ番号の表記には厳密なルールがあり、p. と pp. の使い分けが基本となります。

ページ番号の表記ルール:

  • 単一ページ: 小文字の p. を使用し、数字との間にスペースを入れます。
  • 例: (Smith, 2023, p. 25)
  • 複数ページ(連続): 小文字の pp. を使用し、ページ範囲をハイフン(またはエンダッシュ)でつなぎます。
  • 例: (Smith, 2023, pp. 25–27)
  • 複数ページ(不連続): pp. を使用し、カンマで区切ります。
  • 例: (Smith, 2023, pp. 25, 27)

ページ番号がない資料(Webサイトなど)の場合:

Web記事やHTML形式の論文など、ページ番号が存在しない資料から直接引用する場合は、別の方法で場所を指定する必要があります。APAスタイルでは以下の方法が推奨されています。

  • 段落番号 (Paragraph number): para. という略語を使い、上から何番目の段落かを示します。
  • 例: (Smith, 2023, para. 4)
  • セクション名: 見出し(Heading)の名前を使用します。長い場合は引用符で囲みます。
  • 例: (Smith, 2023, “Results” section, para. 2)
  • タイムスタンプ: 動画や音声データの場合は、開始時間を示します。
  • 例: (Smith, 2023, 1:30)

注意点:

ページ番号の数字は必ず半角で入力してください。また、Page 25 のように略さずに書くのは一般的な引用スタイルでは誤りです。コロンを使って (Smith 2023: 25) と表記するスタイル(シカゴなど)もあるため、投稿規定の確認は不可欠ですが、APAやMLAでは p. や pp. を使うか、MLAなら著者名の後にスペースを空けて数字のみ(例: (Smith 25))とします。

同一著者・同一出版年の文献を区別する方法(1980a, 1980bなど)

同じ著者が同じ年に複数の論文や書籍を発表している場合、単に (Tanaka, 2020) と書いただけでは、どの文献を指しているのか区別できません。このようなケースでは、出版年の後に小文字のアルファベット a, b, c… を付与して区別するのが一般的なルール(APA、ハーバードなど)です。

区別の手順

  1. 参考文献リストの作成: まず、参考文献リストを作成し、文献を並べ替えます。同一著者の文献は、通常、タイトルのアルファベット順に並べられます(冠詞 “The” や “A” は無視します)。
  2. サフィックスの付与: リストの並び順に従って、出版年の後に a, b, c を付けます。
  • リスト1番目: Tanaka, T. (2020a). Alpha waves…
  • リスト2番目: Tanaka, T. (2020b). Beta waves…
  1. 文中での引用: リストで付与された a, b を用いて引用します。
  • 例: Tanaka (2020a) discovered that…
  • 例: In contrast, his later study (Tanaka, 2020b) suggested…

注意点と応用

  • n.d.(日付なし)の場合: 出版年がない文献でも同様に (Tanaka, n.d.-a), (Tanaka, n.d.-b) のようにハイフンを入れて区別します。
  • in press(印刷中)の場合: (Tanaka, in press-a), (Tanaka, in press-b) となります。
  • 共著者の場合: 第一著者が同じでも、第二著者以降が異なり、かつ出版年が同じ場合、著者の並び順(アルファベット順)で文献リストの順序が決まり、それに基づいて a, b が振られることがあります。ただし、APAスタイルでは、著者の列記によって区別がつく場合は a, b を使わず、区別がつくまで著者名を書き出す(例: Smith, Jones, et al., 2020 と Smith, Taylor, et al., 2020)という特別なルールが適用されることもあります。まずは基本の a, b ルールを押さえておきましょう。

文中引用と連動する参考文献リストの作成基礎

文中引用と連動する参考文献リストの作成基礎

参考文献リスト(Reference List)の正しい並び順と優先順位

参考文献リストは、論文の巻末に配置され、文中引用されたすべての文献(個人的な通信を除く)を網羅する必要があります。その並び順は、APAやMLAなどの「著者名・年号方式」ではアルファベット順が基本原則です。正しい順序で並べることは、読者が文献を探す際の利便性を高めるために不可欠です。

並び替えの優先順位(APAスタイルの場合)

  1. 第一著者の姓: アルファベット順(A-Z)で並べます。”Mac” と “Mc” はそのままのスペル順で扱います。
  2. 同一著者(単著)の場合: 出版年が古い順(昇順)に並べます。
  • 例: Smith, J. (2018) → Smith, J. (2020)
  • 日付がない(n.d.)ものは、日付があるものより前に置きます。
  1. 単著と共著: 同じ著者が、単独で書いた文献と、第一著者として書いた共著文献がある場合、単著が常に先に来ます。
  • 例: Smith, J. (2020) → Smith, J., & Doe, A. (2019)(※たとえ共著の年号が古くても、単著が優先されます)。
  1. 共著(第一著者が同じ): 第二著者の姓のアルファベット順で並べます。第二著者も同じなら第三著者の順です。
  • 例: Smith, J., & Brown, T. (2020) → Smith, J., & White, S. (2020)
  1. 著者が同じで出版年も同じ場合: 前述の通り、タイトルのアルファベット順で並べ、年号に a, b を付けます。

著者不明の場合:

著者が存在しない(または特定できない)文献は、タイトルの最初の重要な単語(”A”, “An”, “The” などの冠詞を除く)を使ってアルファベット順に組み込みます。この場合、文中引用でもタイトルの最初の数語を使います。

論文・書籍・オンライン資料など媒体ごとの基本構成要素

参考文献リストの記述は、文献の種類(媒体)によって必要な要素とフォーマットが異なります。ここでは、最も利用頻度の高いAPAスタイル(第7版)を例に、主要な媒体ごとの基本構成を解説します。

1. 学術雑誌論文 (Journal Article)

最も基本的な形式です。DOI(Digital Object Identifier)がある場合は必ず記載します。

  • 要素: 著者名. (出版年). 論文タイトル. 雑誌名, 巻数(号数), ページ範囲. DOI/URL
  • : Smith, J. (2020). The study of citation. *Journal of Academic Writing*, *10*(2), 100–115. https://doi.org/10.xxxx/xxxx
  • ポイント: 雑誌名と巻数はイタリック体、論文タイトルはイタリックにしません。DOIは https://doi.org/ から始まるURL形式で記述します。

2. 書籍 (Book)

出版社名を記載しますが、第7版から出版地(都市名など)は不要になりました。

  • 要素: 著者名. (出版年). 書籍タイトル. 出版社.
  • : Brown, A. (2019). *The history of science*. Penguin Books.
  • ポイント: 書籍タイトルはイタリック体です。

3. 編集書の一章 (Chapter in an Edited Book)

誰が書いた章なのか(著者)と、どの本に入っているか(編者・書名)の両方を記載します。

  • 要素: 章の著者名. (出版年). 章のタイトル. In 編者名 (Ed.), 書籍タイトル (pp. ページ範囲). 出版社.
  • : White, S. (2021). Citation rules. In B. Black (Ed.), *Handbook of writing* (pp. 50–70). Oxford University Press.
  • ポイント: 編者名は「In」の後に書き、名前の順序は「イニシャル. 姓」となります(著者は「姓, イニシャル」)。

4. Webページ (Webpage)

更新頻度が高いサイト以外は、閲覧日(Retrieval date)は不要です。

  • 要素: 著者名/団体名. (年, 月 日). ページのタイトル. サイト名. URL
  • ポイント: タイトルはイタリック体。サイト名も記載します(著者と同じ場合は省略)。

外国語文献のタイトル表記ルール(大文字・小文字、イタリック体の使用)

英語以外の言語(例えば日本語)で書かれた文献を英語論文で引用する場合や、英語文献自体のタイトル表記には、厳格なキャピタリゼーション(大文字・小文字の使い分け)ルールが存在します。スタイルによってルールが真逆になることもあるため、注意が必要です。

1. センテンスケース (Sentence Case)

APAスタイルの参考文献リストで、論文タイトルや書籍タイトルに使われます。

  • ルール: 文(Sentence)を書くときのように、最初の単語コロンやダッシュの直後の単語(サブタイトルの先頭)、および固有名詞のみを大文字にし、それ以外はすべて小文字にします。
  • The psychology of citation: A guide for students.

2. タイトルケース (Title Case)

MLAスタイルのタイトルや、APAスタイルの雑誌名(Journal Name)に使われます。

  • ルール: 冠詞(a, the)、短い前置詞(in, of, on)、接続詞(and, or)を除く、すべての主要な単語(名詞、動詞、形容詞など)の先頭を大文字にします。
  • The Psychology of Citation: A Guide for Students.

イタリック体の使用ルール:

一般的に、「コンテナ」と呼ばれる大きなまとまり(書籍全体、雑誌名、新聞名、Webサイト名)はイタリック体にします。一方、その中に含まれる小さな単位(章のタイトル、論文記事のタイトル)は、スタイルによって扱いが異なります。

  • APA: 論文・章タイトルはイタリックにせず、引用符もつけません。
  • MLA: 論文・章タイトルは引用符 “ ” で囲み、イタリックにはしません。

表:スタイル別タイトル表記

対象APA (7th)MLA (9th)
論文タイトルセンテンスケース(引用符なし)タイトルケース(引用符あり)
書籍タイトルセンテンスケース(イタリック)タイトルケース(イタリック)
雑誌名タイトルケース(イタリック)タイトルケース(イタリック)

訳書や編集書を引用する際の特殊な記述法

村上春樹のような日本の作家の英訳版や、日本語の論文を英語論文で引用する場合、翻訳者や原著の情報をどう扱うかが問題になります。ここではAPAスタイルを例に解説します。

翻訳書の引用(APAスタイル)

翻訳書を引用する場合、翻訳者を明記し、原著の出版年もカッコ書きで添えるのがルールです。

  • リスト: 原著者名. (翻訳年). 翻訳書のタイトル (翻訳者名, Trans.). 出版社. (Original work published 原著年)
  • : Murakami, H. (2003). *Underground* (A. Birnbaum & P. Gabriel, Trans.). Vintage. (Original work published 1997)
  • 文中: (Murakami, 1997/2003)
  • 文中引用では、「原著年/翻訳年」の順でスラッシュで区切って表記します。これにより、読者はその作品がいつ書かれ、どの版を参照しているかを知ることができます。

日本語文献の引用(英訳がない場合)

日本語の文献を引用する場合、タイトルをローマ字表記(Transliteration)し、その直後に英訳(Translation)を角括弧 [ ] で添えます。

  • リスト: 著者名(ローマ字). (年). ローマ字タイトル [英訳タイトル]. 出版社(ローマ字または英語名).
  • : Amano, N. (2000). *Nihongo no goi tokusei* [Lexical characteristics of Japanese language]. Sansei-do.
  • ポイント: タイトルのローマ字部分はイタリック体にしますが、角括弧内の英訳はイタリックにしません。これにより、日本語を読めない読者にも内容を伝えます。

編集書の章の引用:

編集書(アンソロジーなど)の中の特定の章を引用する場合は、章の著者と、本全体の編者を区別します。編者名の前には In を付け、名前の順序を「イニシャル. 姓」とします(著者は「姓, イニシャル」)。また、(Eds.) を忘れないようにしましょう。

引用ミスを防ぐための効率的な管理ツール・サービスの活用法

引用ルールは複雑で、手作業ですべて管理するのはミスの元です。現代の研究環境では、「文献管理ツール」の導入が必須といえます。これらのツールを使えば、論文PDFの情報を自動で抽出し、クリック一つでAPAやMLAなどのスタイルに合わせて参考文献リストを生成できます。

主要なツールとして、以下の3つが挙げられます。

  1. Zotero(ゾテロ)
  • 特徴: オープンソースで完全無料。Webブラウザとの連携が最強で、ワンクリックで論文情報を保存できます。日本語文献の取り込みも比較的スムーズです。
  • おすすめ: 学生、個人研究者、Web資料を多用する人。
  1. Mendeley(メンデレー)
  • 特徴: 学術出版大手Elsevierが提供。PDFファイルをドラッグ&ドロップするだけで書誌情報を自動取得する機能が優秀です。研究者同士のSNS機能もあります。
  • おすすめ: PDFで論文を大量に管理したい理系研究者。
  1. EndNote(エンドノート)
  • 特徴: 高機能でカスタマイズ性が高い老舗ツール。有料ですが、多くの大学で契約されており、システマティック・レビューなど大規模な文献整理に向いています。
  • おすすめ: 本格的なプロの研究者、大量の文献を扱う場合。

無料ツールと有料ツールの比較

ツール価格メリットデメリット
Zotero無料ブラウザ保存が簡単、動作が軽いクラウド容量が少なめ(300MB)
Mendeley無料PDF管理が得意、容量2GBまで無料同期エラーが起きることがある
EndNote有料超多機能、投稿規定スタイルが豊富高価、学習コストがかかる

活用のアドバイス:

執筆時は、WordやGoogle Docsのプラグインを使用しましょう。手入力ではなくツール経由で引用を挿入することで、「本文にあるのにリストにない」「リストにあるのに本文にない」という不一致(Unmatched citation)を100%防ぐことができます。

分野別主要スタイル(APA・MLA)の具体例と最終チェック

分野別主要スタイル(APA・MLA)の具体例と最終チェック

社会科学・心理学で採用される「APAスタイル」の具体的な構造

APA(American Psychological Association)スタイルは、心理学、教育学、社会科学、ビジネス、看護学などで標準的に使用されるフォーマットです。最新の第7版(2019年)では、デジタルメディアへの対応が強化されました。

APAの基本思想は「最新性」の重視です。そのため、文中引用でも参考文献リストでも、著者の次に「出版年」が配置され、読者が情報の鮮度を即座に判断できるように設計されています。

具体的な記述例(学術雑誌論文)

Author, A. A., & Author, B. B. (2020). Title of the article in sentence case. Title of the Journal, 10(2), 123–145. https://doi.org/10.xxxx

  • 著者:姓とイニシャルのみ(例: Smith, J.)。フルネームは書きません。
  • 年号:著者の直後に括弧に入れて配置します。
  • タイトル:論文タイトルは「センテンスケース(先頭のみ大文字)」で、引用符は使いません。
  • 雑誌名: 「タイトルケース(各単語の先頭大文字)」で、イタリック体にします。
  • 巻号: 巻数(Volume)はイタリック、号数(Issue)は括弧に入れてイタリックにしません(例: 10(2))。

日本人研究者が注意すべきAPA第7版のポイント

  • 出版地不要: 書籍の引用で、以前は必要だった出版地(City, State)の記載が不要になりました(例: New York, NY: Routledge → Routledge)。
  • 著者数: 参考文献リストにおいて、著者が20人までは全員の名前を記載します。21人以上の場合は、19人目まで書き、省略記号 … を挟んで最後の著者を書きます。
  • URL/DOI: Retrieved from という言葉は、閲覧日が必要な特別な場合を除き、削除されました。単にURLまたはDOIリンクを記載します。

人文科学・言語学で採用される「MLAスタイル」の具体的な構造

MLA(Modern Language Association)スタイルは、文学、言語学、哲学、芸術などの人文科学分野で広く使用されます。最新の第9版(2021年)は、「コンテナ(Container)」という概念を用いて、書籍、雑誌、Webサイト、Netflixなどの多様なメディアを統一的に扱う柔軟なシステムが特徴です。APAと異なり、MLAは「出典の特定(どこに書いてあるか)」を重視するため、文中引用では年号ではなくページ番号を使用します。

具体的な記述例(学術雑誌論文)

Author Last Name, First Name. “Title of the Article.” Title of the Journal, vol. 50, no. 2, 2020, pp. 123-45. Database Name, https://doi.org/10.xxxx.

  • 著者: フルネームで記載します(例: Smith, John)。
  • タイトル: 論文タイトルは「タイトルケース」で、引用符 “ ” で囲みます。
  • コンテナ(雑誌名): イタリック体にします。
  • 詳細情報: vol.(巻)、no.(号)、pp.(ページ)といった略語を明記します(APAではこれらは省略されます)。
  • 年号: 書誌情報の後ろの方に配置されます。

MLAの特徴的なルール

  • アクセス日: Webソースの場合、リンク切れの可能性があるため、URLの後にアクセス日(Accessed Day Month Year)を記載することが推奨される場合があります。
  • 著者3名以上: 文中引用だけでなく、参考文献リストでも、最初の著者のみを書き、あとは et al. で省略します(APAリストでは20人まで書くのと対照的です)。
  • 日本語文献: 英語論文中で日本語文献を引用する場合、ローマ字表記に加えて、タイトルの英訳を添えることが推奨されますが、MLAでは文脈に応じて柔軟に対応可能です。

スタイルごとの「本文中」と「リスト」の表記ルールの違いと比較

APAスタイルとMLAスタイルは、それぞれ異なる学問的背景(科学 vs 人文)を持つため、表記ルールに明確な違いがあります。これらを混同すると、論文の信頼性が損なわれるため、違いを整理して理解しておくことが重要です。以下の比較表で、特に間違いやすいポイントを確認しましょう。

APA (7th) vs MLA (9th) 比較表

項目APA Style (社会科学・理系)MLA Style (人文科学)
文中引用著者名, 年号, (ページ)
例: (Smith, 2020, p. 15)
著者名, ページ (年号なし)
例: (Smith 15)
著者名 (リスト)姓, イニシャル
例: Smith, J.
姓, フルネーム
例: Smith, John.
論文タイトルセンテンスケース、引用符なし
例: Effect of sleep…
タイトルケース、引用符あり
例: “Effect of Sleep…”
著者3名以上 (リスト)20名まで全員記載初回から et al. で省略
出版年 (リスト)著者の直後(カッコ内)出版社の後(巻末に近い)
巻・号・ページ10(2), 123-145 (略語なし)vol. 10, no. 2, pp. 123-45

比較から見える特徴

  • APAは「いつ(When)」を重視します。科学的知見は常に更新されるため、出版年が著者のすぐそば(一等地)に配置されます。
  • MLAは「誰が(Who)」と「どこに(Where)」を重視します。テキストの解釈が中心となるため、著者のフルネームや、該当箇所へのアクセス(ページ番号)が優先されます。

また、共通点として、どちらも参考文献リストは「ぶら下がりインデント(Hanging Indent)」を使用します。これは、各エントリーの2行目以降を字下げするフォーマットで、著者名を見つけやすくするためのものです。

論文提出前にチェックすべき引用ルールの最終確認リスト

論文を書き上げたら、投稿前に引用に関する最終チェックを行うことが不可欠です。些細なミスが査読者の心証を悪くし、「不注意な研究者」というレッテルを貼られかねません。以下のチェックリストを使って、自分の論文を客観的に見直しましょう。

  1. 引用の整合性(Match Check)
  • 本文中の引用はすべて参考文献リストに載っていますか?
  • 逆に、リストにある文献はすべて本文中で引用されていますか?(ツールを使っていても、手動修正でズレが生じることがあります)
  1. スペルと年号の一致
  • 本文中の Smith (2020) とリストの Smyth (2020) のようになっていませんか?
  • 2020a, 2020b の区別は正しいですか?
  1. et al. の使用法
  • 3名以上の著者について、正しく et al. を使っていますか?
  • ピリオドは al. の後にのみ付いていますか?(et. としない)
  1. 全角・半角の確認(最重要)
  • 日本人研究者が最も犯しやすいミスです。括弧 ( )、カンマ ,、コロン :、スペースが全角になっていませんか?
  • 英語論文ではすべて半角である必要があります。Wordの検索機能で全角文字を探し出し、修正してください。
  1. イタリックと引用符
  • APAなら書籍・雑誌名がイタリック、MLAなら論文タイトルに引用符がついているか確認しましたか?
  • Webサイトからコピーした際、フォントやスタイルが崩れていないか確認しましょう。
  1. DOI/URLのリンク
  • DOIは https://doi.org/… のリンク形式になっていますか?
  • リンク切れはありませんか?

これらの項目をクリアすることで、論文の「見た目」の品質が保証され、査読者が内容の評価に集中できる環境が整います。

最後に

英語論文における引用ルールは、単なる「形式的な決まりごと」ではありません。それは、あなたが先行研究を正しく理解し、自分の研究を学術的な文脈の中に適切に位置づけたことを証明するための重要な手段です。APAやMLAといったスタイルの違いは、それぞれの学問分野が何を重視しているか(最新性か、テキストの特定か)を反映しています。

日本人研究者にとって、英語のハンディキャップに加えて引用ルールまで配慮するのは大変かもしれません。しかし、基本原則を理解し、Zoteroなどの管理ツールを有効活用すれば、恐れることはありません。正しい引用は、あなたの研究成果を世界中の研究者に正当に評価してもらうための「信頼の証」となります。本記事が、あなたの論文執筆の一助となり、国際的な舞台での活躍につながることを願っています。

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研究や論文執筆にはたくさんの英語論文を読む必要がありますが、英語の苦手な方にとっては大変な作業ですよね。

そんな時に役立つのが、PDFをそのまま翻訳してくれるサービス「Readableです。

Readableは、PDFのレイアウトを崩さずに翻訳することができるので、図表や数式も見やすいまま理解することができます。

翻訳スピードも速く、約30秒でファイルの翻訳が完了。しかも、翻訳前と翻訳後のファイルを並べて表示できるので、英語の表現と日本語訳を比較しながら読み進められます

「専門外の論文を読むのに便利」「文章の多い論文を読む際に重宝している」と、研究者や学生から高い評価を得ています。

Readableを使えば、英語論文読みのハードルが下がり、研究効率が格段にアップ。今なら1週間の無料トライアルを実施中です。 研究に役立つReadableを、ぜひ一度お試しください!

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