論文執筆において、引用文献の選定やその記載は、脇役とはいえ重要な作業となります。
引用とは、他者の研究成果や著作物等を利用する行為です。もし適切な方法で行わなければ、著作権法違反にあたる可能性もあります。
本記事では、論文の引用目的から、引用時のやり方やそのポイントまで詳細に紹介します。
目次
引用文献の選定やその記載は、論文執筆には避けては通れない作業です。
たとえ論文作成自体の主な目的が、新規性を追及するものであったとしても、新しい発見は既存の研究成果を前提に成立するものです。まして、従来の研究からの改善点を訴求するような論文の場合は、既存文献の考察と引用が欠かせないものとなります。
論文作成のすべてにおいて、引用が不可欠となっており、脇役ではありますが、論文執筆作業には重要なプロセスです。このため論文において、引用を適切に実施することが研究者にとって大切ですし、もし適切な方法で行わなければ、著作権法違反にあたる可能性があります。
引用とは、他者の著作物、主に他者が作成した既存論文における文章や図表を、自身の論文のなかで用いることです。
また引用をするときには、どの論文から引用してきたのか、その出典を明示しなければなりません。他者の著作物に書かれていることを、自自身の論文の中でそのまま使用する場合だけでなく、既存論文が提示している考え方や理論や、さらにはその論文中で掲載されているデータを用いる場合も同様です。またデータ以外に、実験方法はよく既存論文の手法を参考にしたり、そのまま使用して新たな実験結果を得る場合もあります。
このようなときには、既存論文のデータは使用していませんが、その実験手法は使用していることになります。このため、自然科学系の論文の場合、研究方法の項目には、実験法の紹介をかねて既存文献が引用されているのです。また、引用文献の手法はそのままで、それによりこのデータを得たとして記載されているときもかなりあります。医学やバイオ分野からはじめ、化学や物理分野でも同様な記載で論文が執筆されています。
このような論文の引用目的についてまとめてみます。
まず従来のこれまでの研究をふまえて、自身の研究が成り立っており、その研究成果が自身の論文となっています。これまでの先行研究をふまえることと、自身の研究がそれらのなかにどのように位置づけられるのか、を明確にすることが大切です。このためにも、論文の引用作業があるといえます。
次に、論文の引用にあたっては、今後自身の論文をみる他の研究者、すなわち読者がすぐ引用元を特定できるようにしなければなりません。論文の読者としては、筆者がどのような研究や文献を根拠として用いているのか、を確かめる必要があります。
自然科学分野でいえば、自身の論文をみた読者が同じような研究をする場合、すぐに再現ができるものでなくてはなりません。なぜなら自身の研究は、自分だけの成果というのではなく、広く当該の研究分野に共有されるべき成果だからです。このため、他者が自分と同じ実験をおこない同様な実験結果を得ること(再現性)は、科学では特に重視されます。
このように書くと、いろいろな研究成果が日夜生じているような先端科学の分野では、自分の成果が利用されてしまうのではないか、と懸念する向きもあるかもしれません。科学は基本的には人類共有の財産であり、研究成果の積み重ねが現代の科学を形成しているともいえます。それでも重要な研究を簡単に模倣されたくないという場合は、特許を申請しておくのも、ひとつの解決策です。
特許申請により、他者がその技術を試験的に使用しても、製造工程などに無断で実施されることを防げます。特に先端科学分野では、いわゆるPCT出願を用いておけば、自身の研究の新規性や有用性が、世界中で知的財産権として保持されることにもつながります。
このように重要な論文の引用ですが、どのようにすればよいでしょうか。
論文引用の方法としては、直接引用、ブロック引用、間接引用があります。
既存文献の短文などを直接引用したいときに使用します。この場合、引用した既存文献の文章はそのまま引用して、改変はおこないません。
直接引用したいときは、引用部分を「・・・・・」として記載します(〇〇:著者名)。
〇〇は、「・・・・・」と述べている。
などの例があります。
既存文献の短文だけでなく、短文の集合体や長文を引用したい場合に使用します。自然科学系の論文でも、既存論文の実験方法に記載されている一部、またはそのほとんどを使用して、自身の研究に使用する場合があり、ブロック引用はかなり用いられている引用方法です。
ブロック引用したいときは、通常、引用部分の上下を一行あけて記載します。
短文やその集合体、さらには長文を含めて、既存論文のかなりの部分に記載されている考え方や理論などを、自分で要約して使用することもあります。自然科学系でも、〇〇の理論などと引用する場合、引用元の記載と合わせて、自身で考えるところの〇〇理論を記載するなどの例がそれにあたります。このため引用した内容は、自身で一部改変されている場合もあり、自身の考え方が、間接引用をとおして表現されていることになります。
〇〇は、・・・・・である、としている。
など、研究論文において、特に考察などの項目で使用される引用方法です。
出展の記載については、番号順方式と著者・出版年を併用する方式があります。
自身の論文に記述された順番に、番号をふって記載する方式です。なお番号は下記のように、文章の末尾に当該番号をふっていきます。このため末尾の参考文献欄には、番号順に出展を記載していくことになります。
たとえば、番号1の引用文献の場合は下記のとおりです(〇〇:著者名)。
〇〇は、「・・・・・」と述べている1)。
引用時に、著者と出版年を併せて記載していく方式です。このため末尾の参考文献欄には、アルファベット順などで、それぞれの出展が明記されます。
たとえば、2015年の研究成果を記載する場合は、下記のようになります。
〇〇(2015)は、「・・・・・」と述べている。
また英文論文などでみられる例として、下記もあります(〇〇、▽▽は、著者名)。
・・・・・(〇〇、2020)、・・・・・(▽▽、2010)
なお当方の修士論文(日本語)の例では、番号順で記載しており、博士論文(英語)では、著者・出版年併用で作成しています。
引用される参考文献は、論文の「参考文献欄」に記載することになります。
先ほどあげた、番号順方式と著者・出版年を併用する方式に関して、参考文献への書き方を説明します。
番号順方式の例として、古くて恐縮ですが、当方の修士論文の例を下記にあげてみます。
1. 〇〇、固定化酵素(1975)△△出版
2. ▽▽、Immobilized enzyme technology(1975)▽▽ Press
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27. 〇〇、Enzymologia, 38,39(1970)
論文記載が主ですが、関連書籍も引用される場合があるので、その場合は出版社名も記載しておきます。
次に出展記載が著者・出版年併用方式の場合についても、当方の博士論文例で紹介します。英語論文にて、「REFERENCES」の項目に下記のように記載しています。
1. 〇〇、・・(1990)Clinical pharmacology of caffeine. Annu. Rev. Med., 41:277-288
2. ▽▽ 、・・(1976)Acquired sensory control of satisfaction in man. Br. J. Psychol., 67:137-147
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56. 〇〇、・・(1984) Relationship between caffeine concentrations in plasma and saliva. Clin. Pharmacol. Ther., 36:133-137
引用を適切に行うことは、論文を書く際に守らなければならない注意点のひとつです。このような論文作成における引用時のポイントとしては、どのようなものがあるのでしょうか。
引用とは、既存文献の研究紹介ではないかと思われる向きもないではないですが、実は、既存の研究と自分の研究を比較して、自身の研究の独自性を示す格好の機会です。
どのような点が、既存研究と異なるのかを明瞭に示すことができます。たとえ同様な実験手法を用いても、全く同じ結果とはならないこともあります。再現性が確認できるなら、違った結果であっても、論文に明記することもできます。
もしなぜ違う結果となったのか、考察などで十分に検討することもできるのです。このようなおびただしい研究成果の積み重ねが、現代の科学、特に科学的なエポックを生み出しています。古くなりますが、地動説と天動説の論争においても、データの積み重ねがそれを可能にしたのです。現代物理学でも、たとえばカミオカンデのフォトンセンサーなどの改良により、新しい視点が継続的に切り開かれているともいえます。
このような科学のエポックではなくとも、他の研究との比較によって、自分自身の研究が、それらとどのような点で異なるのかを指摘することが大切です。論文の引用を通じて、どのような新しい知見を提供しているのかを示すことができます。
引用を適切に行うためには、自身と他者の研究成果の区別をすることも欠かせません。
どこが他者の研究成果で、どこからが自分の考えや研究成果なのかを、明確に区別して書かなければなりません。特に研究論文の考察においては、自他を明確に区別して論考することが求められます。この明確性がなければ、いわゆる原著論文などの学術誌に掲載されるような論文の査読基準には合致しません。他者の研究成果だけを用いてあらたな考察をしても、砂上の楼閣ということになります。
また自他の成果を区別するとは、他者の研究に敬意を払うことにつながります。学術誌でもときに研究不正の課題がクローズアップされることがありますが、著作権の問題以前に盗作などとされてしまうこともありえます。このため自身の論文が、出版後にどの読者でもどこまでが既存研究で、どこからが新たな研究成果なのか明確にわかるように記載しなければなりません。
このためにいろいろな引用ルールが慣習法として、従来から設定されています。なお学術雑誌では、特に論文の「投稿規定」として、引用ルールを細かく記載している場合もあります。学会誌や、各大学でも同様な論文作成規定があるところもあり、これらの規定やルールにはしたがい、受理してもらえる研究論文を作成することが大切です。
このように引用を適切におこなうことが大切ですが、引用数とその内容については、必要かつ十分なものとしなければなりません。
自身の論文にほんとうに必要な既存文献を検索などで抽出するプロセスも重要です。参考文献は、実験方法や考察に関連する研究論文を、自身及び他の研究者を含めて、網羅的に検索して明記します。論文検索の手法で、関連の参考文献を適切に過不足なく、記載する必要があります。なおネットでの論文検索についても、科学系サイトなら大丈夫ですが、いわゆる一般サイトからの資料引用は避けるようにします。
また過度に引用数をふやしても、自身の研究論文の内容が充実する効果は期待できません。引用が主体で、既存文献を網羅して紹介するレビュー形式の論文もありますが、通常の学術論文とは異なります(システマティックレビューやナラティブレビューなど:本コラムでもその内容を紹介していますので、興味がある人は一度読んでみて下さい)。
なお論文引用にあたっては、既存文献のアブストラクトのみをみて引用するのではなく、実際の内容についても十分理解してから引用することが大切です。特に、英語論文などもその全文を読んでから引用することをおすすめします。英語でそのまま理解するのが難しい場合は、PDFをそのまま翻訳してくれる「Redable」なども利用しましょう。まず日本語で読んでから英語でさらに理解することにより、原著者の趣旨を十分理解してから引用することにもつながります。
論文の引用目的からはじめて、引用時のやり方やそのポイントまで解説しました。
論文執筆において、引用文献の選定やその記載は、脇役とはいえ重要な作業となります。
論文の引用目的にそって、適切な方法で実施することが大切です。論文作成規定があるところでは、その規定内容にしたがって引用するようにします。
また引用にあたっては、研究の独自性を示したり、自他の研究成果の区別や必要十分な条件での引用などにも考慮しましょう。
本記事が、論文執筆における引用文献の選定や記載についてご参考になれば幸いです。
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都内国立大学にて、研究・産学連携コーディネーターを9年間にわたり担当。
大学の知財関連の研究支援を担当し、特にバイオ関連技術(有機化学から微生物、植物、バイオ医薬品など広範囲に担当)について、国内外多数の特許出願を支援した。大学の先生や関連企業によりそった研究評価をモットーとして、研究計画の構成から始まり、研究論文や公募研究への展開などを担当した。また日本医療研究開発機構AMEDや科学技術振興機構JSTやNEDOなどの各種大型公募研究を獲得している。
名古屋大学大学院(食品工業化学専攻)終了後、大手食品メーカーにて31年間勤務した経験もあり、自身の専門範囲である発酵・培養技術において、国家資格の技術士(生物工学)資格を取得している。国産初の大規模バイオエタノール工場の基本設計などの経験もあり、バイオ分野の研究・技術開発を得意としている。
学位・資格
博士(生物科学):筑波大学にて1994年取得
技術士(生物工学部門);1996年取得