NatureやScienceなどの研究論文は、一般新聞紙面でもその名前が知られており、新発見や新しい科学技術の理論の紹介の場合は、欠かすことのできない存在です。
科学技術分野における両誌ほどではないにしても、いろいろな学術雑誌に研究論文を寄稿し受理されることは、研究者としての将来の発展にもつながるものとなっています。
このように、重要な研究論文を執筆するにはどうしたらよいでしょうか。
実は、研究論文の執筆にあたって、まず論文のアウトラインを設定しておくことが大切なのです。アウトラインの構成と把握なしに、論文を執筆した場合、科学技術系のみならず、人文科学系の論文でも、論文の完成度にも影響をおよぼす場合があります。
本記事では、研究論文のアウトラインについて、構成段階から作成法まで解説します。
目次
研究論文のアウトラインとはどのようなものなのでしょうか。
研究論文を作成する前のアウトラインということになりますが、実験などの研究計画や研究内容に、深くかかわっています。
ただ、研究実施の前に作成しておくかどうかは、その実験の位置づけ、すなわち研究計画の中の実験系などともかかわります。もちろん人文科学系と自然科学系の論文では、アウトラインの各項目の意義はやや異なるかと思います。
自然科学系の論文では、次の項目でも述べますが、研究背景、研究方法、研究結果、考察の順序で、規則正しく記載していく場合がかなりあります。
たとえばアウトラインでは、研究の新規性や重要性を強調するように記載している場合もありますが、そのような研究論文ばかりではありません。
研究の新規性や重要性は、研究計画全体で担保されている必要がありますが、ひとつの論文だけで、決まる訳ではありません。
自然科学系の研究論文は、ふつうは複数、大規模な実験系を有する研究で、かなり多数の論文から構成されていることがあります。このような場合、研究計画の最初の段階では、実験方法を含む、研究方法の開発が重要性を持つ場合もあります。
次に、研究論文のアウトライン構成について、解説します。
自然科学系の論文の場合は、要旨、研究背景、研究方法、研究結果と考察は、必ず含めるようにします。
タイトルは、研究論文の内容を簡潔にもっともよく反映するところです。
日本語でもよいですが、論文公開先が英文論文の場合は、英語で記載することをおすすめします。英語の方が、あいまいな修飾などの影響が少ないからです。
なおタイトル以外の部分も、英文論文の場合はできれば最初から英語で記載しておくことを心がけた方が、後の作業(英文翻訳など)も楽になります。また英語で記載または考えると、主語、述語の関係が明確になり、思考上、研究自体にも役に立ちます。
社会科学系の論文の場合でも、論理の明確化にも役立つのではないでしょうか。
要旨もタイトルと同様に、英語で記載する場合がかなりあります。
但しアウトラインなので、すべてが最初に完成している必要はありません。ひとつのおすすめは、要旨を除く「研究論文のアウトライン」が完成したら、その後「要旨abstractのアウトライン部分」を作成することです。
日本語論文の場合は、日本語で結構ですが、たいていの場合は、タイトルと要旨は、英語で記載することが多いかと思います(ジャーナルの投稿条件などになっている)。
研究背景や目的は、箇条書きで記載しておくことをおすすめします。
一部修正があったとしても、研究計画全体においても、当該論文の背景や研究目的は明確にしておく必要があります。
特に研究背景は重要な個所で、当該研究論文以外に「研究計画」全体にも関与する部分となります。もちろん当該論文1件のみしか投稿しないという場合は別ですが。
研究計画設定段階で、すでに多数の論文を読み込んでから、当該研究を実施する流れになります。この背景について箇条書きで、研究計画設定前に準備しておくようにします。
昨今というより以前からですが、最新の英語論文を検索や購読して、研究背景を設定していると思いますので、日本語に訳すより、英語で要旨を箇条書きにしておく方が便利です。また英語で箇条書きにしておけば、論文アウトラインの作成や、最終的な論文の本文作成にも役に立ちます。博士論文作成などでは、日本の国立大学でも、全文英語表記(日本語版はなし)で指定されている場合がかなりあります。
当該研究の新規性などについては、たとえば実験系の開発などでは、実験機器の使用目的などを記載しておきます。よくある例としては、物理系実験で既に使用されている機器や装置を、バイオ系実験などにあらたに適用するといったこともあります。実験装置の適用対象が従来と異なるときなども、新規性のある研究ですので、箇条書きで記載しておくようにします。
研究方法についても、箇条書きで実験系の手順や方法について記載しておきます。
参照論文に記載とおりなら、論文を引用するだけでよいですが、たいていの場合は、実験にあたってなんらかの工夫や修正をしていることがあります。それらについても、過不足なく記載する必要があるので、やはり箇条書きでまとめておきます。
実験系の手順をデザイン化しておくことも、かなりの論文で見かけます。アウトラインとは一見関連しないように思えますが、わかりやくなるので、含めておいた方がよいでしょう。また研究論文でも使用する場合が多く、研究計画の説明等の場面でも利用できます。
研究結果は、論文のキーとなる部分です。
研究実施後、実験ノート等を参照しながら、過不足なく箇条書きで記載しておきます。
また実際の実験データ、特にグラフや表なども、既にアウトラインの段階で明示したり、どの部分に載せるか検討しておきます。できたら、学会発表のような要領で、図表と実験結果の、簡単な箇条書き文章を作成・記載します。
なおどの図表を載せるかは、今回の論文のタイトルや主題にそって選択します。たとえば、実験系の開発では、標準物質の測定データと目標とする対象物の測定データなどはかならず載せます。もちろん実験系開発論文の後の、目標対象物の研究論文では最初の測定データなどは不要の場合があります。
研究結果の考察は、一番重要な部分です。
アウトラインの段階でも、記載したい考察結果を明確にしておき、箇条書きで記載しておくことが大切です。
実際の研究論文執筆時には、この箇条書きをみながら執筆していきます。
先にタイトルなどの英文での作成を記載しましたが、考察についてもあてはまります。英語で考察すると、あいまいな部分がない訳ではないですが、かなりの部分が低減されることになります。また箇条書きの英文が既にあれば、多少修飾語を多くしても、英文自体の論理性はそのまま保たれるメリットがあります。結果的に、アウトライン作成後に控えている、本文作成時に非常に役立ちます。
先の項目でも一部記載しましたが、最後に論文アウトラインの作成法や作成メリットについて解説します。
論文アウトラインの作成法についてまとめますが、「(仮)タイトル⇒ 研究背景⇒ 研究方法⇒ 研究結果⇒ 考察⇒ 要旨」の順に、アウトラインを作成することをおすすめします。
タイトルは後でつけるという人もいない訳ではありませんが、やはり全体を表すので最初の方がよいです。また要旨は、他のアウトラインが完成したら、最後に箇条書きでまとめておきます。なお要旨部分は、最終論文作成後にあらためて作成するという、やり方もありえます。
仮タイトルと要旨は、論文完成後に最終修正・調整するようにすればよいでしょう。
アウトライン作成のメリットですが、設計図ができるということと、研究指導が容易になる、という利点があります。
アウトラインは、論文作成のための設計図の役割も果たしています。
いきなり論文作成を開始すると、完成した論文が本人が最初意図していたものと異なる可能性が多分にあります。もちろん、頭の中で熟考することも大切ですが、やはり実際に箇条書きで記載してみるメリットは、十分にあります。
また論文作成にあたり、もし研究室で研究指導を受けている場合などは、指導教官や自研究助言者などに、あらかじめ見せて意見や指導をもらうことも可能となります。特に、研究を開始して間もない人ほど、このような機会を得ることが重要です。貴重な指導をしてもらえる機会を活かすためにも、まず論文アウトラインを作っておくことをおすすめします。
これ以外にも、もしアウトラインを英文で作成しておけば、最終段階の英文作成が非常に容易になります。論文作成の最終段階では、翻訳ソフトやAI翻訳などもありますが、時には問題となるような翻訳文の場合もありえます。
論文アウトラインの作成方法について、その作成目的から始め、アウトラインの構成や作成メリットについて記載しました。
特に論文タイトルは、論文完成後に修正するのは別として、最初に設定しておくことをおすすめします。というのは、論文の方向性を決定する重要な個所だからです。
なおアウトラインを最初から英文表記しておけば、その後の研究論文の作成時にも便利です。最初は、日本語論文でデビューしたとしても、その後は欧米の英語雑誌に投稿することも多いので、あいまいな表現を避ける意味でも役立ちます。
本記事が、研究論文を作成するみなさま、特に研究生活を開始して間もない方々のお役に立てば幸いです。
都内国立大学にて、研究・産学連携コーディネーターを9年間にわたり担当。
大学の知財関連の研究支援を担当し、特にバイオ関連技術(有機化学から微生物、植物、バイオ医薬品など広範囲に担当)について、国内外多数の特許出願を支援した。大学の先生や関連企業によりそった研究評価をモットーとして、研究計画の構成から始まり、研究論文や公募研究への展開などを担当した。また日本医療研究開発機構AMEDや科学技術振興機構JSTやNEDOなどの各種大型公募研究を獲得している。
名古屋大学大学院(食品工業化学専攻)終了後、大手食品メーカーにて31年間勤務した経験もあり、自身の専門範囲である発酵・培養技術において、国家資格の技術士(生物工学)資格を取得している。国産初の大規模バイオエタノール工場の基本設計などの経験もあり、バイオ分野の研究・技術開発を得意としている。
学位・資格
博士(生物科学):筑波大学にて1994年取得
技術士(生物工学部門);1996年取得
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