新聞やSNSなどでも、最先端の研究やその成果が注目を集める昨今ですが、研究において裏方ともいえる存在が、実験ノートです。
最近のAIブーム等により、コツコツノートをつけるのは今や時代に遅れているとの向きもあるようです。しかし、ノートというアナログ手法を使用して、実験ノートを記載する重要性はまったく薄れていません。
実は、研究の成果により特許などの知財を得るためにも実験ノートは重要で、これがないと特許が成立しない、ことさえあります。最先端医薬品の開発や、AI分野の深層学習などに関しても、実験ノートが必要な場面があるのです。
本記事では、実験ノートの重要性から初めて、その記載方法や活用法など、研究に必要なノート作成について詳細に解説します。
新聞やSNSなどでも、最先端の研究やその成果が注目を集める昨今ですが、研究において裏方ともいえる存在が、実験ノートです。
最近のAIブーム等により、コツコツノートをつけるのは今や時代に遅れているとの向きもあるようです。しかし、ノートというアナログ手法を使用して、実験ノートを記載する重要性はまったく薄れていません。
実は、研究の成果により特許などの知財を得るためにも実験ノートは重要で、これがないと特許が成立しない、ことさえあります。最先端医薬品の開発や、AI分野の深層学習などに関しても、実験ノートが必要な場面があるのです。
本記事では、実験ノートの重要性から初めて、その記載方法や活用法など、研究に必要なノート作成について詳細に解説します。
目次
研究において、実験ノートは実験そのものと同じぐらい大事な存在ともいえます。研究者の実験内容を記載すること自体に、実はその意義があります。
実験ノートとは、自分で実験を遂行していく人の強い味方ともいえる存在となりうるものです。
実験ノートの記載目的とは、研究や事象を明らかにするため、それに基づいた研究結果をもとに、考え方の内容の妥当性を自分なりに検証することにあります。
また自身の考え方や見解を示すと共に、「実験計画」や「実験結果」も重要な要素となります。これらの実験計画やその結果を、整理して実験ノートに記載します。
自分の研究の進展に応じて、日々いろいろな実験を自分で計画し、実施することが最終的な目標となります。
研究内容について、「問い」と「答え」が論理的につながり、実験結果が疑いもなく実証するデータとなっている場合もあります。このような場合は、その実験は成功しているといってよいでしょうが、実験結果がいつも期待どおりにいくとは限りません。
そのような場合でも、自分の実験ノートは毎日つけて、後から読み返すことが大切です。
そもそも実験ノートは、なぜ付けなくてはならないのでしょうか。
研究において、実験ノートは「自分」の実験内容を証明する唯一の方法ともいえます。
もちろん現在はやりのような動画で、その実験内容を逐一録画しておくなどの方法がないわけではないですが、偽の動画や後日加工した動画など、あとで問題が生じる可能性もあります。
自分の実験というところがみそで、これが一番重要なポイントとなります。
日々の実験結果をまとめていくと、いわゆる自分の研究内容や、ひいては研究論文の作成へと発展させることも可能です。もちろん、研究過程の途中や最後には、いろいろな考察を行い、追加実験やさらには、その実験系が役に立たなかったということもあり得ますが、それでも実験ノートは自分にとって強い味方となります。
自分の実験にとって強い味方となる実験ノートですが、それではどのようにつければよいでしょうか。
ここでは実験ノートに必要な項目、実験の実施日、目的、方法および、その実験結果などについて記載します。
実験実施日
実験ノートにおいて一番重要な項目が、いわゆる記入日や実験実施日となります。
さらにいえば、研究の途中では、本実験の前に、予備実験や単に実験手法(実験方法など)の検討段階での内容が含まれます。これらのすべてにとって実施日を明示しておくことが大切です。
具体的には、実験ノートの最上部(いつも一定した個所に記載した方がよい)に自身で決めた方法で記載していきます。
あとで読み返すときに役立ちますし、場合によっては、当該実験が確実に実施された証拠となることもあります。
本項目では、研究全体の目的とは異なり、当日の実験内容での目的を記述しておきます。
たとえば、本実験前の予備実験において、分析機器の条件を設定するということがあります。
この場合は、機器の条件設定が目的ですから、それを記載します。機器設定方法などは実験ではないといわれる向きもあるかと思いますが、研究全体では、当該の機器条件の設定が重要なカギとなることもあります。
研究の成果は、その実験機器の状態や、本人の機器取扱い方法(固有技術など)などにも依存します。
このように、何を目的として当該実験を行うのか、明示しておくことが必要です。
実験内容の目的に応じて、その実験方法を記載します。
実験方法もそのやり方によっては、まったく違った実験結果になったりしますので、重要な項目です。
たとえば、基礎レベルの有機化学実験などにおいても、方法、特に試薬の混合順序などが大きくその結果に影響することがあります(目的とする実験化合物が得られないことさえあります)。
このため、過度に詳しくなくてもよいですが、一連の方法があとからみてもわかるように、できれば第3者がみてもわかりやすいように書くことがベストです。
実験結果の記載は、実験ノートの本体、ともいえる部分です。
手書きで記載する場合は、その結果を詳細に記載します。なお、実験機器のデータが機器から得られるような場合は、そのデータ自身を、実験ノートに貼っておきます。
たとえば、有機実験やバイオ系実験では、液体クロマトグラフィーなどを数多く使用します。そのアウトプット自体を、クロマトのデータとして添付しておけば、有機化学実験で、目的とする実験化合物を得たことを証明することも可能です。
なお最近は機器測定データ自体が、電子データとなっており、当該実験のファイルに自動的に保存されるような場合もあります。このような場合では、実験結果保存先のファイル名も記載します。
自動保存は、企業の品質管理部門などでは強い味方ともなりますが、開発部門や大学での研究では、できれば自動保存と並行して、結果を印刷しておくことも重要です。
なぜなら自動保存されたデータを書き換えたり、実験日をあとから変更されたりすることも考えられます(故意の有無にかかわらず)。特にクラウドではネットワークの影響を受ける場合もあるので、できれば測定データの保管(研究開発分野の場合)は、スタンドアロンの方をおすすめします。
実験日や実験方法などについて記載しましたが、ここからは、その記載方法のポイントや手法についてまとめています。
実験内容を記載する媒体については、大学ノートなどを使用します。
文具メーカーからも実験ノート用のものも販売されているので、それらを使用するのもよいでしょう。
大学ノートのように、糸でとじられた糸綴じノートを利用することが大切です。
改ざんできないノートとなっていることが重要で、研究成果の実証や、あとから発明を認定するような特許論争などの重要な証拠ともなります。
実験ノートの記載には、必ずボールペンを使用します。
なおシャープペンシルは使用できません。こちらも実験ノートと同じで、改ざんできないことが重要となります。
なおもし後から間違った記述ということがわかっても、消さずに上から二重線などを引いて対応します。
間違った記載と思っても、場合によっては、あとで自分の実験結果の方が正しかったということも考えられます。
科学領域で、その当時は妥当と思われる実験方法や結果が、あとの世代で違っていたりすることもかなりあります。むしろ世紀の大発見などという研究では、当時の理論や科学的常識を疑っていることから生じたことも多いのです。
実験の前には、かならず当日の実験内容や手順を確認しておきます。
実験計画としては、精緻なものでなくてもよいですが、たとえば有機化学実験で、自分にとってはあたらしい化合物を合成する場合は、その手順をまず勉強して、妥当と思われる手順を、実験ノートに記載しておきます。
「分かりやすいノート作成」の項目でもふれますが、たとえば「実験ノートの左側」に自身で合成の手順をまとめておきます。当日は、その手順をみながら実験し、「実験ノートの右側」に、手順ごとに得られた実験結果、たとえば当該化合物に関する精製度や純度などのデータを記載していきます。
実験後にも、確認の意味で、自分にとってどの手順が有効とか、失敗であったとかの記載をしておきます。これによりあとでどこを間違えたのか検証ができ、さらには次の実験はどのようにすべきかなど、あらたな実験計画を立てることができます。
実験ノートの記載方法について述べてきましたが、わかりやすいノート作成のコツはどのようなものでしょうか。
大学ノートにボールペンでつけるのはもちろんですが、是非、ノート見開きの左側と右側も有効に利用してください。
実験系の整理にもなり、どの実験をいつ実施したかとか、失敗に終わっても、その次の実験で成功したとか、一連の研究が一目瞭然でわかります。
また実験中は、多色のボールペンを使用することが便利です。通常は黒を利用しておき、実験の上で重要なポイントにかかわる部分とか、ここは失敗した可能性があるときには、赤や別の色の記載をしておくと、あとから容易に検証することができます。
実験ノートの見開きの両方を使用するのは、もったいないように思われますが、あとで見返すときに大変役に立ちます。
なお実験ノートは、あらかじめ余分に用意しておき、ノート記載が完了すれば、次のノートを使用します。
このためあまり高価ではない大学ノート類を使うのがおすすめです。もちろん研究室によっては、使用する実験ノートを指定している場合もありますので、そのときは当該ノートを使用します。
場合によっては、実験ノート群が自分の財産にもなり、あとあとの研究計画にも役立つ場合もあります。
実験ノートを研究終了後、当該研究室で回収するところもあると思いますので、その場合はそれに従ってください。大学等の実験室でも、あとあとの研究成果の再確認が必要なところもあります。
実験ノートをつけるメリットはたくさんあります。デメリットはないといってもいいほど、実験ノートの記載は重要です。
米国では一時期、特許申請をする場合、「先発明主義」を採用しており「発明日」が問題となっていました。世界の大勢は「先願主義」という「特許庁への申請日」を基準にしています。
この基準が異なるため、他国では特許と認められた技術が、米国では認められず、場合によっては、たとえば米国の大学で実施された研究成果の方が、当該特許として採用されることもありました。
現在では、先発明主義はなくなりましたが、その時代に申請された発明の特許登録で、問題となっている事例もまだ存在します。
特にバイオ分野では、ノーベル賞も受賞した、クリスパーキャス9というゲノム編集に関する重要技術において、その特許論争が続いてきた経緯があります。
このようなノーベル賞級の実験でなくとも、実験ノートの記載を習慣づけておくことは研究者にとって大切なことです。
もし当該実験が失敗した場合でも、どの手順で間違えたとか、場合によってはまったくあたらしい有機化合物を合成する場合など、あとでその実験系の妥当性を検証できます。
あたらしい有機化合物の場合、もし実験に成功すれば、この実験ノートを参考にしながら、すぐに研究論文を書くこともできます。もちろん、再現性検証のための確認実験は必要ですが。
実験ノートとは、自分がその実験を実施し、実験成果を示す証拠ともなるものです。実験の再現性や、あたらしい実験結果を得たことを証明してくれます。また後日、研究論文をまとめるときに一番重要な情報源ともなります。
実験ノートに関して、その目的、記載内容や記載時のコツなどに加えて、実験ノートをつけるメリットについても記載しました。
是非、自分なりの実験ノートの記載スタイルを確立して、ご自身の実験に役立ててください。
本記事が、いろいろな実験に従事する方々、特にこれから実験ノートを頻繁につけることになる研究者のみなさまのお役に立てば幸いです。
都内国立大学にて、研究・産学連携コーディネーターを9年間にわたり担当。
大学の知財関連の研究支援を担当し、特にバイオ関連技術(有機化学から微生物、植物、バイオ医薬品など広範囲に担当)について、国内外多数の特許出願を支援した。大学の先生や関連企業によりそった研究評価をモットーとして、研究計画の構成から始まり、研究論文や公募研究への展開などを担当した。また日本医療研究開発機構AMEDや科学技術振興機構JSTやNEDOなどの各種大型公募研究を獲得している。
名古屋大学大学院(食品工業化学専攻)終了後、大手食品メーカーにて31年間勤務した経験もあり、自身の専門範囲である発酵・培養技術において、国家資格の技術士(生物工学)資格を取得している。国産初の大規模バイオエタノール工場の基本設計などの経験もあり、バイオ分野の研究・技術開発を得意としている。
学位・資格
博士(生物科学):筑波大学にて1994年取得
技術士(生物工学部門);1996年取得
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