原著論文ということばを聞くことがありますが、どのような論文なのでしょうか。
NatureやScienceなどに掲載される原著論文は、新聞紙面でもその名前が知られており、重要な研究内容紹介の場合は、欠かすことのできない存在です。
このように大切な原著論文ですが、実際にはどのように作成されるものでしょうか。
本記事では、原著論文についてその定義・特徴からはじめ、書き方や作成ポイントまで詳細に解説します。
目次
最近、原著論文に関する話題が取り上げられることが多くなっています。
原著論文とは、新規性や有用性を有する、新たに作成した研究論文のことになります。
新規性、有用性などを兼ね備えたものですので、オリジナリティのある論文ともいえます。
国際的な英文学術誌のみならず和文による学術雑誌でも、研究者は自身の研究成果やその考察などを公開しています。論文投稿にまだあまり慣れていない場合は、その後の査読プロセスなども気になる点もあるかと思われます。学術雑誌に論文を発表することは、研究者にとって重要な作業といえるでしょう。
研究を開始して間もない人や、経験豊富な研究者にとっても、論文作成は自身にとっても重要なプロセスとなります。
原著論文を含む、研究論文は、研究対象に関して、これまでの実験結果を明らかにして、自身の考え方や見解を示すと共に、それに基づいた研究成果をもとに、その考え方の内容の妥当性を、論文として表現するものです。また論文執筆後、論文投稿・査読といった一連の作業のあとにはなりますが、その研究を広く公開して認めてもらうことも出来ます。
このような研究論文の作成において、原著論文は、特に重要な成果のひとつとなっています。最新のイノベーション成果を発表する機会として、特に注目を集めています。科学技術分野にかぎらず、人文社会系などにおいても、原著論文は、独創性を有する研究成果を発表する重要なプロセスとなります。
原著論文は、研究論文の中では最も一般的な論文ともいえますが、査読制度のある学術雑誌において、著者のオリジナリティを有する最新研究成果を示すものとなっています。
論文には、原著論文、総説論文、レター、学位論文などの種類があります。
原著論文とは、先ほども一部紹介しましたように、学術雑誌に掲載され、著者オリジナルの研究成果を公開する論文となります。
総説論文ですが、ある特定の分野に関して、先行する研究を徹底的に調査し、結果を比較検討したものを述べる研究論文の一種です。過去の研究に基づくこと、新たな研究データは含まないこと、そして未発表の文献を対象としないことが特徴です。なお総説論文はそれ単独で著作物となります。
次に、レターまたは速報といわれる研究成果を記載するものがあります。原著論文では、査読により厳密に研究成果が検討・確認されますが、査読時間は短くなっています。このため研究成果をすぐ公開したい場合によく使用されます。なお最近は電子版のみのレター形式の論文公開もあり、特に新規性を主張するのに利用されます。
学位論文は、文字通り学位を取得する場合に作成される論文です。修士論文などもありますが、通常は博士号を得る博士論文のことをさします。国内の大学で博士論文を作成した場合は、国会図書館に所蔵され保管されることになっており、一部が大学から寄贈されています。
原著論文の構成は、大まかにわけると、目的、対象と方法、結果、考察、謝辞・文献などの区分から成っています。
自然科学系の論文では、序文(研究背景)、実験方法、実験結果、考察などについて、順をおって記載していきます。
人文科学分野では、テーマとして、論文執筆前の問いに対して、著者の見解としての答えが記載されていればよい、とする考え方もありますが、自然科学分野の研究論文では、問いと答えの間の「実験方法」や「実験結果」が重要な要素となります。
またすぐ原著論文を作成するのではなく、作成の際の設計図ともなる、研究論文のアウトラインを作成しておく方がベターです。たとえば、「(仮)タイトル⇒ 序文⇒ 実験方法⇒ 実験結果⇒ 考察⇒ 要旨」の順に、作成します。実験方法や実験結果があれば、すぐ執筆開始できると思われがちですが、段階をふんで準備して行く方が完成度が高く、論文の質も高くなります。いきなり論文作成を開始すると、完成した論文が本人が最初意図していたものと異なる可能性もあります。
準備作業が終了すれば、論文の作成にとりかかります。なお、投稿する学術雑誌の「投稿要領」も執筆前に全て確認しておき、問題ないようにしておくことが大切です。自然科学系論文のみならず、人文科学系の論文でも論文の構成を知り、それに沿って執筆する必要があります。
方法論、特に実験方法は、脇役の感じもある個所かと思いますが、自然科学系では非常に重要な箇所で、これをおろそかにした論文は成り立ちません。
場合によって、実験方法が異なると、別の結果がでてしまう可能性もかなりあります。特にバイオや医療系などの論文では、実験方法の開発自体が問題となっている分野も存在しています。また宇宙物理などの分野では、実験方法である観測系の設定・確立自体が、大切な課題です。もちろん既に開発済みの実験手法を用いる場合は、既存文献を参照することとして引用します(原著論文の「文献」欄にも記載することが大切です)。
自然科学系の研究では、実験方法の開発が鍵となった例は数多くあり、特に原著論文でも力点をおいて記載する必要があります。当該論文においては、研究方法の開発が、その実験目的であり、その結果や考察を記載することとなります。
研究方法の開発というと、一段階低いレベルの研究とも思われがちですが、あらたな研究方法の開発が、自然科学の発展をささえてきたといっても過言ではありません。
特に重要な研究発見には、かなりの部分をあたらしい実験方法の開発がしめており、ノーベル賞級の研究でも、そのような場合が多数あります。
結果の部分は、原著論文のキーとなる部分であり、図表も用いて明確に記載します。なお記載方法としては、過去形でおこない、実験結果の考察や解釈の部分は、「考察」の項目で実施することが大切です。実験データは、グラフが作成できる場合は使用しますが、グラフ化が難しい場合は、代わりに表を用いたり文章などで記載します。なお同じデータはどれかひとつで記載し、重複して使用するのは避けるようにします。
実験ノート等を参照しながら、過不足なく箇条書きで論理的な展開にそって記載します。また図表の掲載時には、対象実験(コントロール)やバックグラウンドのデータも必ず追記します。実験結果の項目でも記載した、統計処理については的確に使用して記載することが大切です。使用した統計処理ソフトの種類なども、有意差判定などで重要となり、場合によっては当該論文の受理の可否にも影響します。特にバイオ系では、実験で動物系などを使用したりして複雑なものとなり、実験結果の判定もそれに付随して難しくなる場合があります。
どの図表を載せるかは、当該研究の目標や目的等にそって選択します。たとえば、実験系の開発自体が原著論文の目的の場合は、標準物質の測定データと目標とする対象物の測定データなどはかならず両方とも載せておきます。また実験結果の項目では、統計処理結果のみを記載するようにして、その解釈は考察で実施することが大切です。
研究結果の考察は、原著論文でも自身の考えも記載できる一番重要な部分です。自身の研究目的がどのように達成できたのか、具体的に説明します。
なお本文執筆前に、記載したい考察結果を明確にしておき、箇条書きで記載しておくこと、非常に役にたちます。実際の研究論文執筆時には、この箇条書きをみながら執筆していきます。要旨とも関連する部分もありますが、自身の論文テーマとの関連から考察し、文章にまとめることが必要です。
参考文献の選択と記載も重要なポイントとなります。特に、実験結果の項目で使用した文献(実験方法など)は必ず、参考文献の項目にも記載します。
なお参考論文に記載した方法にそのまま従う場合は、論文を引用するだけでよいですが、たいていの場合は、実験にあたってなんらかの工夫や修正をしていることがあります。それらについても、過不足なく記載する必要があるので、この場合は「実験結果」の項目でも記載しておきます。
なお参考文献、特に関連した論文を抽出し、実際に読んでおく必要があります。
論文作成では、自身の研究分野の関連論文を効率的に探すことが大切です。当該研究に関する「キーワード」をグーグル スカラーなどの論文専用サイトであらかじめ検索しておきます。
謝辞については、当該研究の実施において、たとえば実験機器の操作などでお世話になった人などを記載します。
論文作成の最後に、要旨や要約部分をまとめとして作成します。
なお学術雑誌では、要約部分がタイトルの直下にある場合が多数あります。要約は文献検索などで特によく使用される部分でもあり、過不足なくまとめることが大切です。
読者は要約をまず読んで、それ以外の部分を読む必要があるか判断するため、特に重要な箇所となります。
ここからは、原著論文作成時のポイントについても紹介します。
原著論文には、必ず専門的なキーワードをいれるようにします。他の研究者の検索結果において、自身の論文が正しく内容把握されるようになります。
また原著論文作成後は、かならず専門家や第3者にチェックしてもらうようにします。執筆原稿の確認は大切で、自身での確認後、できれば指導教官や他の研究者にもみてもらうようにします。自分ではなかなか気づかない癖とか、特定分野で多用される言い回し表現などもあります。
なお論文作成とは直接関連しませんが、論文査読対応と特許対応の課題があります。研究成果の報告としては、特許申請なども考えられ、知財面では重要な場合もあります。なぜなら原著論文で必須な新規性と有用性は、そのまま特許成立条件ともなるからです。
論文の書き方とは直接関連しませんが、論文投稿時の査読対応も重要です。論文投稿後、査読者(複数)によって、論文の評価が行われます。特に、原著論文などを掲載する有名学術雑誌ほど、論文審査が厳しくなっています。
通常の場合、評価のポイントは論文の完成度は当然ですが、新規性、有用性、信頼度などの観点から評価されることが多いようです。なお査読者の氏名は公開されず、論文執筆者にもわかりません。複数の査読者の評価結果をもとに、編集委員会で審査が行われ、受理、修正必要、却下などの判断がくだされます。
なお一部修正などの連絡がある場合があり、この場合には、査読者の指摘事項に基づき、論文本文の修正や、場合によっては追加データなどの提出も行います。
査読者の誤解によるときもあるので、その場合は適切な説明の書類を提出します。なおやりとりも複数回にわたる場合もあります。
特に英語論文では、英文でのやりとりになりますので注意が必要で、研究開始して間もない場合は、指導教官などにもみてもらうようにします。一般的には、複数回のやりとりの後、はれて論文受理となります。
査読対応以外にも、できれば原著論文においては、論文執筆と特許申請に同時に取り組むことも重要なポイントとなります。
イノベーション頻度の高い分野の原著論文では、特許対応がその後の実用化に直接的に影響します。新規性、有用性の高い論文では、特許性の評価項目と同じということもあり、特許申請を考えて置いた方が得策です。
特に日本では、従来は特許申請せずともオリジナリティが認められればよい、とする考え方もありましたが、海外はかなり異なっています。
米国の大学では、古くから特許戦略と論文申請がリンクされて検討されており、特許実用化により得られた対価(研究費用など)が、当該研究室に還流される仕組みが確立しています。なおアジア各国においても、特許戦略を最上位に掲げている大学が多数あります。
原著論文のように、早期に論文投稿をおこなう場合は、できればPCT出願を同時並行で実施しておくことが大切です。
PCT出願は、特許条約に参加する各国への申請を前もってカバーするもので、それなりの費用はかかりますが、特許登録時の費用ほど高価なものではありません(もし特許性がないと判断されれば、後で放棄も可能です)。
アジアでも、既に日本以上にPCT出願を多用している国が複数あります。PCT出願をしておかないと、最近の太陽電池開発などの例のように、あとで特許性を主張することはできなくなります。特に国立大学では、国からの研究費用がいまだ大半を占めており、その研究対価の面から、研究開発上も重要な視点であるといえます。
原著論文は、著者にとっても大学や研究機関にとっても最重要な情報でもあり、ますます有用性が高まるものと考えられます。
AIなどでの論文作成がない訳ではありませんが、オリジナリティを有する研究者にとって重要な課題であり、今後も新規論文作成や付随する特許申請など、世界各国での利用が見込まれる領域となっています。
本記事が、原著論文についてよく知りたい方々や関連作成作業にも取り組まれているみなさまの、お役に立てば幸いです。
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都内国立大学にて、研究・産学連携コーディネーターを9年間にわたり担当。
大学の知財関連の研究支援を担当し、特にバイオ関連技術(有機化学から微生物、植物、バイオ医薬品など広範囲に担当)について、国内外多数の特許出願を支援した。大学の先生や関連企業によりそった研究評価をモットーとして、研究計画の構成から始まり、研究論文や公募研究への展開などを担当した。また日本医療研究開発機構AMEDや科学技術振興機構JSTやNEDOなどの各種大型公募研究を獲得している。
名古屋大学大学院(食品工業化学専攻)終了後、大手食品メーカーにて31年間勤務した経験もあり、自身の専門範囲である発酵・培養技術において、国家資格の技術士(生物工学)資格を取得している。国産初の大規模バイオエタノール工場の基本設計などの経験もあり、バイオ分野の研究・技術開発を得意としている。
学位・資格
博士(生物科学):筑波大学にて1994年取得
技術士(生物工学部門);1996年取得