「インパクトファクターが高い雑誌に投稿したいけれど、そもそもインパクトファクターとは?」、「論文の価値をインパクトファクターだけで判断していいの?」などとお考えですか?
インパクトファクターは、ジャーナルの権威を測る重要な指標の一つです。しかし、その意味や調べ方、注意点などを正しく理解することが重要です。
本記事では、インパクトファクターの基本的な概念から計算方法、そして研究評価における適切な活用方法まで、実践的な視点で解説していきます。
目次
代替テキスト インパクトファクターの基礎知識
インパクトファクター(IF)とは、学術雑誌が特定の期間内にどれだけの頻度で引用されたかを示す指標 です。一般的にジャーナルの権威や影響力を測るために用いられます。具体的には、過去2年間に出版された論文が、対象年にどれくらい引用されたかを示す数値です。
インパクトファクターは、Web of Scienceの過去2年分のデータから計算されます。具体的には、以下の計算式で算出されます:
IF=(対象年の前2年間に雑誌に掲載された論文が対象年に引用された回数)/(対象年の前2年間に雑誌に掲載された論文の総数)
例えば、2017年のNature誌のインパクトファクターは41.577でした。これは2015年と2016年にNature誌に掲載された論文が、2017年に平均で約42回引用されたことを意味します。計算式は以下の通りです。
2017年のIF=41.577=74090 / (880 + 902)
ここで、74090は2017年の引用回数、880は2016年の論文数、902は2015年の論文数を表しています。
一般的な学術雑誌では1〜2程度の値となることが多く、5以上で高評価、10以上であれば極めて影響力の大きいジャーナルとされています。
インパクトファクターは、学術雑誌の評価指標として広く認識されており、学術界に大きな影響を与えています。インパクトファクターが高いジャーナルは、その分野において高い評価と権威を持っていると見なされ、研究者が論文掲載を目指す重要なモチベーションになります。
インパクトファクターは、以下のような場面で重要な役割を果たしています。
しかし、インパクトファクターはあくまでも指標の一つであり、それだけでジャーナルの質や研究の価値を完全に評価できるわけではありません。後述する注意点も踏まえ、インパクトファクターを適切に理解することが重要です。
インパクトファクターは、当初図書館員のジャーナル選定指標として考案されましたが、今日ではジャーナルの「質」を評価する指標として広く認識され、研究機関や研究者の評価にも用いられるようになっています。
これは、高いインパクトファクターを持つジャーナルは、より多くの研究者に読まれ、引用される可能性が高いという考えに基づいています。
IFは、以下の3つの重要な役割を果たしています:
しかし、インパクトファクターをジャーナルの質の指標として用いることには、多くの問題点が指摘されています。例えば、以下のような点があります:
レビュー論文は一般的な研究論文よりも引用されやすい傾向も指摘されます。インパクトファクターは、あくまでもジャーナルの影響力を測る指標の一つとして捉え、他の指標と合わせて総合的に判断することが重要です。
代替テキスト インパクトファクターの調べ方
インパクトファクターを調べる最も信頼性の高い方法は、Clarivate Analytics(クラリベイト・アナリティクス)社が提供するデータベース「Journal Citation Reports (JCR)」を利用することです。JCRは、Web of Scienceのデータに基づいて算出されたインパクトファクターや、その他のジャーナル評価指標を提供しています。
JCRへのアクセス方法は以下の通りです:
インパクトファクターは、以下のような方法で調べることができます。
JCRは、大学図書館などで契約されていることが多いので、所属機関の図書館にアクセス方法を確認してみましょう。毎年6月頃に前年のデータが更新されるため、最新の情報を確認する際は更新時期に注意が必要です。また、Clarivate Analytics社のウェブサイトでは、JCRの概要や活用方法に関する情報も提供されています。
学術論文データベースであるWeb of Scienceからも、インパクトファクターを調べることができます。Web of Scienceは、世界中の様々な学術雑誌の論文情報を収録しており、キーワードや著者名などから論文を検索できます。
Web of Scienceでインパクトファクターを調べるには、以下の手順に従います。
Web of Scienceは、多くの大学や研究機関で利用可能ですが、JCRと同様に有料データベースです。所属機関の図書館などにアクセス方法を確認しましょう。
また、検索結果は四半期ごとに更新されるため、最新のデータを確認する際は更新時期を確認することをお勧めします。
JCRやWeb of Scienceにアクセスできない場合でも、調べたいジャーナルの公式サイトでインパクトファクターを確認できることがあります。多くのジャーナルは、自誌のインパクトファクターを掲載情報として公開しています。
公式サイトでインパクトファクターを確認するには、以下の方法を試してみましょう。
例えば、Nature誌は、公式サイト上で「2023年におけるNatureのジャーナルインパクトファクターは50.5」と公開しています。
ただし、公式サイトの情報は最新でない場合や、そもそもインパクトファクターを公開していない場合もあります。そのような場合は、JCRやWeb of Scienceを利用するか、所属機関の図書館に問い合わせてみましょう。
代替テキスト インパクトファクターの評価基準
インパクトファクターは、分野によって論文の引用慣習が大きく異なるため、一概に数値だけで評価することはできません。
一般的には、インパクトファクターが1〜2程度のジャーナルが多いとされています。
しかし、分野によっては、標準的な数値が大きく異なります。例えば、
JCRでは、ジャーナルを分野別に分類し、それぞれの分野におけるインパクトファクターの平均値や中央値などを確認できます。論文を投稿する際には、自分の分野における標準的な数値を参考にし、適切なジャーナルを選びましょう。
インパクトファクターを相対的に評価する方法として、四分位数(Quartile)を用いる方法があります。JCRでは、各分野におけるジャーナルをインパクトファクター順に並べ、上位から4つのグループ(四分位)に分類しています。
四分位数は、ジャーナルの相対的な位置づけを示す指標となり、Q1に分類されるジャーナルは、その分野で特に影響力の高いジャーナルとみなされます。
論文を投稿する際には、目標とするジャーナルがどの四分位に属するのかを把握して、ジャーナル選択の際の判断基準にできます。
一般的に、インパクトファクターの高いジャーナルは、以下のような特徴を持つと言われています。
これらの特徴から、高インパクトファクタージャーナルに論文が掲載されることは、研究者にとって大きな名誉とされ、研究者としての評価向上や研究資金獲得にも有利に働くと言われています。
また、高インパクトファクタージャーナルでは、オープンアクセスポリシーの採用や、ソーシャルメディアでの研究成果の発信など、論文の可視性を高める取り組みも積極的に行っています。これらの要素が組み合わさり、掲載論文の高い被引用数につながっています。
しかし、インパクトファクターが高いジャーナルに掲載されることだけが、研究の価値を判断する基準ではないことに注意が必要です。研究の独創性や社会的なインパクトなど、多角的な視点から研究を評価することが重要です。
インパクトファクターは、分野によって論文の引用慣習が大きく異なるため、単純な数値比較はできません。
この違いは主に以下の要因から生じています:
例えば、2021年の分野別データを見ると、医学分野の『The New England Journal of Medicine』は91.245という極めて高い数値を示す一方、物理学分野の代表的なジャーナル『Physical Review Letters』は9.161となっています
医学・生命科学分野では、研究者人口が多く、論文発表数も多いため、インパクトファクターは高くなる傾向があります。一方で、人文・社会科学分野では、研究者人口が少なく、論文発表数も少ないため、インパクトファクターは低くなる傾向があります。
また、分野による引用の特徴も大きく異なります。医学や分子生物学では1論文あたりの引用数は多いものの引用期間は短く、数学では1論文あたりの引用数は少ないものの引用期間が長いという特徴があります。
このような分野特性の違いを考慮するため、近年では分野内での相対的な位置づけを示す四分位数(Q1〜Q4)による評価が推奨されています。これにより、より公平な分野間比較が可能となります
インパクトファクターは、ジャーナルの影響力を測る指標として広く利用されていますが、万能ではなく、以下のような限界も存在します。
特に問題なのは、個々の論文や研究者の評価指標として誤用されている点です。インパクトファクターはジャーナル全体の評価指標であり、掲載された個別の論文の質を直接反映するものではありません。
また、研究の質を測る上で重要な以下の要素が評価できません:
このような限界を踏まえ、近年では研究評価にh-indexやAltmetricsなど、複数の評価指標を組み合わせて活用することが推奨されています。研究の質を適切に評価するためには、インパクトファクターのみに依存せず、多角的な視点からの評価が不可欠です。
インパクトファクターは、ジャーナルの影響力を測る指標として広く利用されていますが、その限界を理解し、他の評価指標と併用することで、より多角的な視点からジャーナルや論文を評価 できます。
近年、インパクトファクターのみに頼った評価の弊害が指摘されており、論文の質や研究のインパクトをより適切に評価できる代替指標が注目されています。
代表的な代替評価指標には以下のものがあります:
これらの指標を組み合わせることで、研究の多様な側面を評価できます。例えば、h-indexは研究者の生産性と影響力のバランスを示し、Altmetricsは論文の即時的な社会的インパクトを可視化します。
また、Eigenfactor ScoreやArticle Influence Scoreなどの新しい指標は、引用元のジャーナルの影響力も考慮に入れた、より包括的な評価を可能にしています。
このように、複数の評価指標を適切に組み合わせることで、研究の質や影響力をより正確に把握できます。単一の指標に依存せず、研究分野や目的に応じて適切な指標を選択しましょう。
インパクトファクターに関する疑問は解消できましたか?
学術雑誌の影響力を測る指標であるインパクトファクターは、論文投稿先を選ぶ際などに参考になる一方で、万能な指標ではありません。
研究分野による数値の違いや、評価指標としての限界を理解した上で、h-indexやAltmetricsなど、他の評価指標と組み合わせて活用することが重要です。
論文投稿先を選ぶ際は、インパクトファクターのみにとらわれず、
などを総合的に判断することです。
ぜひ今回の内容を踏まえ、自信を持って論文投稿を進めていきましょう。
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東大応用物理学科卒業後、ソニー情報処理研究所にて、CD、AI、スペクトラム拡散などの研究開発に従事。
MIT電子工学・コンピュータサイエンスPh.D取得。光通信分野。
ノーテルネットワークス VP、VLSI Technology 日本法人社長、シーメンスKK VPなどを歴任。最近はハイテク・スタートアップの経営支援のかたわら、web3xAI分野を自ら研究。
元金沢大学客員教授。著書2冊。