英語の契約書や論文で「薬機法」をどう表記すべきか迷ったことはありませんか?2014年の改正以降、英語名は複雑化しており、旧法「薬事法」の表記を使い続けることはビジネス上の信頼失墜や契約トラブルのリスクを招きます。
本記事では、薬機法の正式な英語名称(PMD Act)から、契約書やメールですぐに使える実務的な英文例、GMPなどの関連用語までを網羅的に解説します。単なる翻訳にとどまらず、国際ビジネスの現場で武器となる正確な法規制英語をマスターしましょう。

日本の「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)」の正式な英語訳は、以下の通りです。一言一句が法的な意味を持っています。
Act on Securing Quality, Efficacy and Safety of Products Including Pharmaceuticals and Medical Devices
この名称がなぜこれほど長く、かつこのような単語構成になっているのかを理解するために、構成要素を分解して解説します。
海外の規制当局や弁護士との正式な契約書(Master Service AgreementやSupply Agreementなど)では、この長い正式名称を省略せずに記載する義務があります。契約書の冒頭にある「定義条項(Definitions)」で以下のように記述するのが、最も標準的かつ安全な手法です。
【契約書での定義例】
The “Act on Securing Quality, Efficacy and Safety of Products Including Pharmaceuticals and Medical Devices” (Act No. 145 of 1960, as amended) shall be hereinafter referred to as the “PMD Act“.
このように、法律番号(Act No. 145 of 1960)と「改正を含む(as amended)」という文言を添えることで、将来的な法改正にも対応できる強固な定義となります。
【各国の主要な規制法との比較】
日本の薬機法を説明する際、相手国の法律と比較すると理解が早まります。以下の表は、日米欧の主要な基本法を比較したものです。
| 地域 | 法律の通称 | 正式名称(英語) | 特徴 |
| 日本 | PMD Act (薬機法) | Act on Securing Quality, Efficacy and Safety of Products Including Pharmaceuticals and Medical Devices | 医薬品、医療機器、再生医療等製品を単一の法律で包括的に規制している点がユニークです。 |
| 米国 | FD&C Act | Federal Food, Drug, and Cosmetic Act | 食品、医薬品、化粧品をカバーする連邦法。医療機器もこの中に含まれます。 |
| 欧州 | MDR / IVDR | Medical Device Regulation (EU) 2017/745 | 欧州では医薬品(Directive 2001/83/ECなど)と医療機器(MDR)で法体系が明確に分かれています。 |
この表からも分かる通り、日本の薬機法は「医薬品も医療機器も(さらには再生医療も)一つの法律でまとめて管理している」という点で、世界的に見ても珍しい構造を持っています。そのため、英語名称に “Products Including Pharmaceuticals and Medical Devices” という包括的な表現が必要となるのです。
ビジネス実務、学会発表、プレゼンテーションの場では、正式名称があまりに長すぎるため、“PMD Act” という略称が世界的なスタンダードとして定着しています。
この略称は、Pharmaceuticals and Medical Devices Act の頭文字をとったものです。日本の規制当局である厚生労働省(MHLW)や、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)が発行する英語版のガイドラインやプレゼンテーション資料でも、この “PMD Act” という表記が公式に使用されています。
【PMD Actという表記を使うべき場面】
ただし、略称の使用にはいくつかのバリエーションと注意点があります。以下のリストを確認し、文脈に合わせて使い分けてください。
【NGな略称例】
日本の公的機関が薬機法をどのように英訳しているかを知ることは、正しい用語選択の最終的な拠り所となります。法務省が運営する「日本法令外国語訳データベースシステム(Japanese Law Translation)」では、薬機法の標準対訳として “Act on Securing Quality, Efficacy and Safety of Products Including Pharmaceuticals and Medical Devices” が採用されています。これは日本国としての公式見解(Official Translation)です。
一方、規制の実務を担うPMDA(医薬品医療機器総合機構)のウェブサイトや英文報告書では、より実用的な運用が見られます。PMDAの英文パンフレットや「Annual Report」を分析すると、以下のような傾向があります。
また、薬機法はあくまで「法律(Act)」ですが、その下には詳細なルールを定めた「政令(Cabinet Order)」や「省令(Ministerial Ordinance)」、「通知(Notification)」が存在します。これら下位法令の英語タイトルも、親法である薬機法の英語名に準拠しています。
【法令階層ごとの英語表記ルール】
| 法令階層 | 日本語名称 | 英語名称の定型パターン | 記載例 |
| 法律 (Act) | 薬機法 | Act on Securing… | Act on Securing Quality, Efficacy and Safety… |
| 政令 (Cabinet Order) | 薬機法施行令 | Order for Enforcement of the Act on… | Order for Enforcement of the Act on Securing… |
| 省令 (Ministerial Ordinance) | 薬機法施行規則 | Regulation for Enforcement of the Act on… | Regulation for Enforcement of the Act on Securing… |
| 通知 (Notification) | 課長通知等 | Notification / Notice | PFSB Notification No. XX issued by MHLW |
このように、基本となる薬機法の英語表記を間違えてしまうと、関連する施行令や施行規則の英語タイトルもすべて誤ったものになってしまいます。特に「Enforcement(施行)」という単語は、法律を実行に移すための細則であることを示す重要なキーワードです。

2014年11月の改正以前、この法律は「薬事法」と呼ばれ、英語では “Pharmaceutical Affairs Law”、通称 “PAL” と表記されていました。ベテランの研究者や、長年日本市場を担当している海外のマネージャーの中には、この “PAL” という呼称に馴染みがあり、現在でも無意識に使ってしまうケースがあります。
しかし、現在において “PAL” を使用することは、単なる名称の間違い以上のリスクを孕んでいます。それは、「医療機器や再生医療等製品が、医薬品とは別の章で独立して規制されている」という現在の法体系を理解していないと見なされる恐れがあるからです。
【なぜ “Pharmaceutical Affairs” ではダメなのか?】
“Pharmaceutical Affairs” という英語は、直訳すると「薬に関する諸問題・業務」という意味になります。この言葉のニュアンスには、以下のような歴史的背景が含まれています。
これに対し、現在の名称に含まれる “Products” という単語は、規制の対象が「行政手続き」から「市場に流通する製品そのもの」へとシフトしたことを象徴しています。
なぜ名称がこれほど劇的に変わり、英語訳も長くなったのでしょうか。その背景には、科学技術の進歩と、それに伴う規制のパラダイムシフト(Paradigm Shift)があります。これを英語で説明できるようになると、日本の市場環境を海外へポジティブにアピールできます。
【名称変更をもたらした3つの主要因】
これらの背景があるため、英語名称は単なるラベルの変更ではなく、「日本が最新の科学技術に対応した規制環境を整えた」という宣言でもあります。海外パートナーに対しては、“The shift from PAL to PMD Act represents Japan’s commitment to innovation and safety.” と説明すると、非常に好意的に受け取られます。
学術論文や、規制当局への申請資料(CTD:Common Technical Document)を作成する際、引用するデータや文献が「いつの時点のものか」によって、法律名を厳密に書き分ける必要があります。
特に、長期にわたる臨床試験のデータや、過去の承認事例(Predicates)を引用する場合、この書き分けは必須です。すべてを現在の「PMD Act」に書き換えてしまうと、歴史的事実の改竄(Falsification)と取られかねません。
【引用時の書き分けガイドライン】
【参考文献リスト(Bibliography)での扱い】
参考文献リストでは、その文献が発行された当時のタイトルをそのまま記載するのが引用の原則(Citation Rules)です。
この時系列に対する感度は、Regulatory Affairs(薬事担当者)やメディカルライターとしての資質が問われる重要なポイントです。

海外企業との販売店契約(Distributorship Agreement)、供給契約(Supply Agreement)、秘密保持契約(NDA)において、「日本の法律を守ること」を条項に盛り込むケースは頻繁にあります。
この際、単に “comply with Japanese laws” と書くだけでは不十分な場合があります。ヘルスケア製品の場合、薬機法への不適合は製品回収(Recall)や業許可の取り消し(Revocation of Business License)に直結する重大事項だからです。以下に、契約書でそのまま使える条項例を提示します。
1. 一般的な法令遵守条項 (General Compliance Clause)
最も汎用性が高い表現です。販売店やサプライヤーに対し、薬機法を含む関連法令の遵守を義務付けます。
Article X (Compliance with Laws)
The Distributor shall strictly comply with the PMD Act and all other applicable laws, regulations, and guidelines in Japan regarding the importation, storage, marketing, and sale of the Products.
(第X条 法令遵守:販売店は、本製品の輸入、保管、マーケティング、および販売に関する、日本における薬機法およびその他全ての適用法令、規則、ガイドラインを厳格に遵守するものとする。)
2. 品質保証に関する表明保証 (Representation and Warranty on Quality)
供給される製品が、日本の品質基準に合致していることを保証させる条項です。
Article Y (Quality Assurance)
The Supplier represents and warrants that the Products to be supplied hereunder shall conform to the specifications and comply with all requirements under the PMD Act, including but not limited to the Ministerial Ordinance on Standards for Quality Assurance for Drugs, Quasi-drugs, Cosmetics and Medical Devices (“GQP Ordinance”).
(第Y条 品質保証:供給者は、供給される本製品が仕様書に適合し、かつ、医薬品、医薬部外品、化粧品及び医療機器の品質管理の基準に関する省令(「GQP省令」)を含むがこれに限定されない、薬機法に基づく全ての要件に適合していることを表明し保証する。)
3. 監査権限の確保 (Right to Audit)
相手方が正しく薬機法を守っているかを確認するため、立ち入り検査を行う権利を留保します。
Article Z (Audit)
The Company shall have the right to audit the Distributor’s facilities and records to verify compliance with the PMD Act and the GQP/GVP standards agreed upon by the parties.
(第Z条 監査:当社は、当事者間で合意された薬機法およびGQP/GVP基準への遵守状況を確認するため、販売店の施設および記録を監査する権利を有する。)
自社製品が日本の厳しい規制をクリアし、正式に承認されたものであることを海外に向けてアピールすることは、マーケティングにおいて非常に強力な材料となります。しかし、薬機法には「承認」「認証」「届出」という厳密な区分があり、これを英語で間違えると「虚偽表示」となるリスクがあります。
以下の表を参考に、自社製品のステータスに合った正しい動詞を選択してください。
【製品ステータスごとの英語表現対照表】
| 区分 | 日本語 | 英語動詞 / 名詞 | 英文例 |
| 高度管理医療機器など | 承認 | Approval / Approve | This product has obtained marketing approval under the PMD Act. |
| 管理医療機器など | 認証 | Certification / Certify | The device is certified by a third-party certification body pursuant to the PMD Act. |
| 一般医療機器など | 届出 | Notification / Notify | We have submitted a marketing notification for this product to the MHLW. |
| 業許可 | 許可 | License / Grant | Our facility is licensed as a Manufacturer under the PMD Act. |
| 業登録 | 登録 | Registration / Register | The manufacturing site is registered with the MHLW. |
解説:
新しいヘルスケアアプリ(SaMD:Software as a Medical Device)や、健康雑貨、美容機器を開発した際、それが「医療機器(薬機法の対象)」なのか、単なる「雑貨(対象外)」なのかを英語で説明する場面も増えています。
特に海外の投資家や提携先は、Regulatory Risk(規制リスク)を非常に気にします。「もし薬機法対象なら、開発に数年かかるではないか!」と懸念するからです。この「該非判定(Applicability Determination)」の結果を明確に伝えるフレーズを紹介します。
1. 薬機法の対象外(非該当)であることを主張する場合
もっとも明確に「規制リスクがない」ことを伝える表現です。
“According to our legal assessment, this product does not fall under the category of ‘Medical Devices’ as defined in Article 2, Paragraph 4 of the PMD Act.”
(我々の法的評価によれば、本製品は薬機法第2条第4項で定義される「医療機器」のカテゴリには該当しません。)
2. 薬機法の対象内(該当)であることを認める場合
規制対象であることを認めつつ、どのクラスに属するかを説明します。
“This software is classified as a Class II ‘Controlled Medical Device’ subject to the regulations of the PMD Act, requiring third-party certification.”
(本ソフトウェアは、薬機法の規制対象となるクラスII「管理医療機器」に分類され、第三者認証が必要です。)

薬機法の実務において、必ず登場するのが規制当局の名称です。これらも定訳が決まっており、勝手に翻訳することは許されません。
1. 厚生労働省 (Ministry of Health, Labour and Welfare)
2. 独立行政法人医薬品医療機器総合機構 (Pharmaceuticals and Medical Devices Agency)
【関係性の説明例】
海外担当者には、MHLWとPMDAの関係が分かりにくいことがあります。以下のように説明するとクリアになります。
“The MHLW acts as the supreme regulatory authority issuing approvals, while the PMDA conducts scientific reviews and GMP inspections on behalf of the MHLW.”
(厚労省が承認を発行する最高規制当局として機能し、PMDAが厚労省に代わって科学的審査やGMP査察を行います。)
薬機法独自の概念であり、最も翻訳が難しく、かつ重要なのが「製造販売業者」です。これは単に製品を作るメーカー(Manufacturer)とは異なり、市場への出荷判定や安全管理責任を負う、日本国内のライセンス保持者を指します。
以下の表は、薬機法における主要な業許可(Business Licenses)の英語名称リストです。名刺や会社案内の作成時に活用してください。
【業許可・役割の英語名称完全リスト】
| 日本語名称 | 英語名称 (Official/Standard) | 略称 | 役割定義 |
| 製造販売業者 | Marketing Authorization Holder | MAH | 製品を日本市場に出荷し、全責任を負う主体。日本国内に住所が必要。 |
| 製造業者 | Manufacturer | – | 製品を物理的に製造する工場。責任は限定的。 |
| 外国製造業者 | Foreign Manufacturer | – | 日本国外にある製造工場。認定(Accreditation)が必要。 |
| 選任製造販売業者 | Designated Marketing Authorization Holder | DMAH | 外国製造業者が日本で製品を売るために指名するMAH。 |
| 販売業者 | Distributor | – | 製品を卸売・小売する業者。MAHのような製品責任は負わない。 |
| 総括製造販売責任者 | General Marketing Compliance Officer | GMCO | MAHの「三役」の一人。品質と安全管理を統括するキーパーソン。 |
特に MAH と Manufacturer の違いは、海外企業との契約で最も揉めるポイントです。
“Who will be the MAH in Japan?”(誰が日本でのMAHになるのか?)という問いは、ビジネススキームの根幹(誰がコストとリスクを負うか)を問うものです。
薬機法を語る上で避けて通れないのが、「GxP」と呼ばれる一連の基準です。これらも省令ごとに正式な英語名があります。契約書の「遵守すべき基準」として列挙する際に必須となります。
【主要なGxP省令リスト】
【契約書での使用例】
“The Supplier shall manufacture the Products in accordance with GMP (for drugs) or QMS (for medical devices) regulations, and cooperate with the Purchaser to ensure compliance with GQP and GVP standards in Japan.”
このように、製造側の責任(GMP/QMS)と、販売側の責任(GQP/GVP)を明確に分けて記述することが重要です。
薬機法(医薬品医療機器等法)の英語表記は、単なる言葉の置き換えではありません。“Act on Securing Quality, Efficacy and Safety of Products Including Pharmaceuticals and Medical Devices” という長い名称には、医薬品や医療機器の品質と安全を確保し、国民の健康を守るという法の精神が刻まれています。
本記事では、正式名称から略称、旧法との違い、そしてビジネス実務で使える具体的な契約条項や用語の定義までを詳細に解説してきました。特に、“PMD Act” という略称の適切な使用法や、“MAH” と “Manufacturer” の決定的な違い、そして日本独自の “GQP” 概念を英語で説明するスキルは、国際的なビジネスパートナーとしての信頼を築くための強力な武器となります。
グローバル化が進むヘルスケア産業において、言葉の壁がビジネスの壁になってはなりません。正確な法規制英語を使いこなすことで、皆様の革新的な製品やサービスが、国境を越えてスムーズに展開されることを心より願っております。本記事が、そのための実用的なガイドブックとして活用されれば幸いです。

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東大応用物理学科卒業後、ソニー情報処理研究所にて、CD、AI、スペクトラム拡散などの研究開発に従事。
MIT電子工学・コンピュータサイエンスPh.D取得。光通信分野。
ノーテルネットワークス VP、VLSI Technology 日本法人社長、シーメンスKK VPなどを歴任。最近はハイテク・スタートアップの経営支援のかたわら、web3xAI分野を自ら研究。
元金沢大学客員教授。著書2冊。