最近、論文などの翻訳において、意訳ということばを聞く機会が増えています。
「意訳」の対語として「直訳」ということばもよく出て来ています。
翻訳作業では、どちらかを選んで翻訳することとなりますが、どのように選択すればよいのか、わかりにくいことも多いのではないでしょうか。
これを解決するためには、意訳と直訳の場合の特徴や違いなども理解しておくことが大切です。
本記事では、意訳と直訳の比較からはじまり、そのポイントや注意点など詳細に解説します。
目次
意訳とは、翻訳用語ではありますが、一般的にも使われることばです。
また具体的には、どのような文章が意訳には適しているのでしょうか。
意訳とは、文章の内容を十分に理解・把握して、その文章がいわんとしている意向をくみ取って、翻訳することとなります。
前後の文脈も読み取り、読み手に違和感のない文章にすることも大切です。
あとで述べますが、翻訳ですので、英語から日本語にするのか、日本語から英語にするのかといった観点も非常に重要です。
英語の構造や、逆に日本語ではどのような構造なのかといった点は、意訳をする場合にも重要な要素となります。
「意訳」の対語として「直訳」ということばがありますが、両者の特徴についても比較してみます。
意訳の特徴としては、自然な文章に仕上がることがまずあげられます。
英語の文章翻訳の場合は、日本語でも読みやすい文章となることが期待されます。
ただ日本語で読みやすいから、良い翻訳とは言い切れません。たとえば研究論文などでは、意訳された文章は読みやすいですが、研究内容(実験結果や考察など)が正しく理解できるかは別問題となります。したがって、翻訳前の文章の種類によって、意訳を採用するかどうか検討すべきことになります。
一般的に、英語から日本語に翻訳する場合で、研究論文や技術的書類以外の書籍や記事などでは、意訳を実施した方がよいでしょう。
ただし、科学技術関係以外でも、特許などを含む法律関連の文章では、意訳は不向きです。
直訳の特徴としては、伝達したい内容を正確に翻訳できることにあります。
英語の文章翻訳の場合でも、科学技術関連の論文などは直訳で翻訳するのが適切です。また特許や知財の文章では、文章自体が、日本語の知財文章でも、既に直訳的な論理構成となっています。このため英語の知財文章から日本語に翻訳する場合も、直訳を使用するのが一般的です。
意訳をおこなう場合、翻訳文章を読む購読者が所属する、社会や文化的背景も考慮しなければならないことがあります。
意訳に関する技術的なポイントや注意点を記載する前に、「意訳」を行う場合に考慮すべき観点について考察してみます。
日本語から英語に「意訳」する場合ですが、対象例としては、文学や生活関連のいわゆるライフ系の記事などがあります。
というのは科学技術系や法律系では、意訳によるあいまいな文章とすることは不可となります。従って、特に文学作品などの意訳が、従来から実施されてきました。
意訳後の英語の文章を誰が読むかですが、ほぼ100%は英語圏の人々となります。英語の勉強としても、日本文学の英語版を購読するのは、ふつうは語学関連の研究者ぐらいかと思われます。
このような意訳の文学作品の例としては、世界最古の長編文学ともいわれる「源氏物語」があります。源氏物語では、漢語はほとんど使われておらず、大和言葉による最初の長編小説ともいわれています。
当時の日本語による文章を、異文化圏、特に欧州世界に紹介する場合は、意訳によるところが大きいかと存じます。
もちろん世界最初の長編小説家である、紫式部の類まれなる才能により誕生したものです。日本人でも、古文の授業で習わないと、全文はおろか、桐壺などの主要な巻でさえ、読破するのは難しいぐらいなので、日本語からというより、古文からの翻訳作業となります。
源氏物語の英訳ですが、従来から注目されている書籍に、ウェイリーの翻訳版があります。
これは登場人物などにいたるまで、西洋文化圏を題材とした、いわゆる完全な意訳版となっています。イギリスの東洋学者ウェイリーにより、世界初の完全英訳版The Tale of Genjiとして、戦前に刊行されています。
西洋文化圏でも理解しやすいように、西洋の宮廷をモチーフとして、英訳(意訳)されています。最近はやりのAI翻訳では、到達することはかなり難しい領域ともいえます。
英語から日本語に「意訳」する場合ですが、こちらも科学技術系は少ないかと思います。
したがって、こちらも文学作品、特に昔からよく日本でも知られた児童文学作品などが多くなっています。
たとえば、英語からの翻訳ではないですが、イソップ物語は、戦前の早い時期に日本語訳があり、日本人にはよく知られた外国の文学作品となっています。
イソップ物語の意訳も含む翻訳については、文学関係者の研究対象ともなっています。
引用先:https://hermes-ir.lib.hit-u.ac.jp/hermes/ir/re/18988/0201000701.pdf
この中で、日本語への翻訳の難しさについて、次のような記述があります。
「Daleは、「日本語の普通的な単語は、日本固有の伝統によって、特別なニュアンス を持っているので、日本人だけがそれらの意味を理解することができ、他の言語への翻訳 はできない」と語っている。こうした考え方が日本と世界の間に目に見えない壁となっ てきた。
Dale の日本人論によると、日本語の単語は特別なニュアンスを持っているが、昨今、多くの外来語が日本語に入ってきている。Backhouseによれば、日本語の語彙の6%は外来語である。しかし、Honnaはこの割合が 10%ぐらいであると言っている。
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時代を通じて、日本語の中には、色々な外来語が入っているが、日本語への翻訳をするとき、翻訳者は多くの難しさを克服しなければならない。
私は、イソップの寓話の翻訳を使いながら、最初の翻訳から始めて、ギリシャ語から日本語への翻訳という過程の 難しさに関して説明しようと思う。」
外国語から日本語へ意訳する場合、外国語(上記ではギリシャ語)としての構造を理解したうえで、日本語のニュアンスなども当然理解した前提で、翻訳しなければなりません。
本研究者(一橋大学・言語社会研究科:コバニ マリエ氏)によれば、言語、文化、社会の3層構造は、翻訳作業においても重要な視点であることを強調しています。
ひとびとが暮らしている、言語、文化、社会の3つの構造に関する洞察は、翻訳作業においても重要な視点となりえます。これは、翻訳前の言語等の構造とともに、翻訳後の言語等の構造も考慮しないといけないことになります。
上記のような背景があることを理解した上で、自分で翻訳したり、場合によっては翻訳会社などに依頼するようにします。翻訳会社でも、直訳的な機械翻訳を提供していることもありますし、意訳的な翻訳ができるところもあります。
企業の研究所などでは、いろいろな文書の翻訳を発注することもありますが、このような場合にも購読者(記事領域の用語でいえば、ペルソナのこと)を明示して、さらに翻訳作業のやり方(意訳や直訳などの方針やその細部等)についても記載しておくことが大切です。
翻訳作業において、意訳をおこなう場合、もとの文章が日本語か英語によって、ポイントや注意点もかなり異なります。意訳をするとき、日本語から英語の場合と、逆の場合についてもまとめました。
日本語から英語への意訳については、まず翻訳された文章の使用・利用先を明らかにしてから翻訳すべきです。
先に述べたように、一般的に研究論文や技術論文は意訳は不向きです。このため文学書などがその候補となりますが、どの程度まで意訳するか、その範囲を、対象となる購読者であるペルソナを用いて明らかにしておきます。
翻訳された文章を読む購読者が、たとえば源氏物語のように、欧州圏の人々などが対象で、且つ源氏物語という、まったくの異国で文化的背景に関する知識は一般の人はもっていません。
このような場合に、源氏物語の「文学的価値」をいかに伝えるかという観点から、The Tale of Genjiの翻訳者は、ベストな翻訳というより、あらたな文学的作業をおこなったともいえるかもしれません。
通常の技術的文書を翻訳する作業では、このようなことは考慮する必要はほとんどありません。なぜなら、日本語の技術論文等の背景を、既にある程度は知っている読者がそれを購読する場合が多いからです。
英語から日本語への意訳についても、翻訳された文章の利用先が大きなポイントとなるかと思います。
英語の技術的論文や最近、企業活動等で重要となっている海外の法律や知財文書などは、直訳でほぼ翻訳されています。意訳を利用するのは、やはり外国文学やSNS関連などの限られた分野かと思います。
ただ注意したいのは、意訳により元の趣旨が伝わっていないことがないようにすべきです。単語でも、日本語にあまりない、またはあまり使わない単語がでてきた場合は、要注意です。
どのようにすべきかは、利用者にもよりますが、ときにはカタカナ用語にしておくのもひとつの解決策となります。
いろいろな分野で、カタカナ用語が氾濫しており、注意喚起もされていますが、たとえば脱炭素関連の文書では、カタカナ専門用語としないと、もとの文書の意味自体がつたわらないこともあります。このような場合は、当該用語を詳細説明した欄を、巻末にもうけるようにします。
日本語の語彙の10%ぐらい(先のリンク先参照)は外来語ともいわれており、逆に外来語を積極的に取り入れてきたのが、日本語ともいえます。最近、翻訳の世界にも、AI翻訳が導入されていますが、いろいろな言語体系に準じたAIなどが開発されています。
日本語は結果的にも、他の言語に比べてもさらに進化していく傾向があり、AI翻訳でも導入後のブラッシュアップが重要かと思われます。
意訳と直訳の比較からはじまり、意訳の背景の考察や、意訳時のポイントまで詳細に解説しました。
翻訳にあたっては、意訳と直訳の場合の特徴や違いなども理解しておくことが大切です。
翻訳される文書や、翻訳後の購読者が暮らしている、言語、文化、社会の構造に関する考慮も、翻訳作業においては重要な視点となりえます。
本記事が、文書やいろいろな文章を意訳してみたい人のお役に立てば幸いです。
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都内国立大学にて、研究・産学連携コーディネーターを9年間にわたり担当。
大学の知財関連の研究支援を担当し、特にバイオ関連技術(有機化学から微生物、植物、バイオ医薬品など広範囲に担当)について、国内外多数の特許出願を支援した。大学の先生や関連企業によりそった研究評価をモットーとして、研究計画の構成から始まり、研究論文や公募研究への展開などを担当した。また日本医療研究開発機構AMEDや科学技術振興機構JSTやNEDOなどの各種大型公募研究を獲得している。
名古屋大学大学院(食品工業化学専攻)終了後、大手食品メーカーにて31年間勤務した経験もあり、自身の専門範囲である発酵・培養技術において、国家資格の技術士(生物工学)資格を取得している。国産初の大規模バイオエタノール工場の基本設計などの経験もあり、バイオ分野の研究・技術開発を得意としている。
学位・資格
博士(生物科学):筑波大学にて1994年取得
技術士(生物工学部門);1996年取得