学会発表を控えているのに、抄録作成に苦戦していませんか? 限られた文字数で研究の重要性を効果的に伝え、多くの研究者の目に留まるような魅力的な抄録を書きたいと思っていませんか?構成や注意点がわからないまま書き始めてしまうと、時間だけが過ぎてしまうこともあるかもしれません。
この記事では、学会の抄録とは何か、その役割や論文・要旨との違いをわかりやすく解説します。 さらに、効果的な書き方や注意点を、例文を交えながら具体的に紹介します。 この記事を読めば、読者を惹きつけ、審査員を納得させる、質の高い抄録を作成するための道筋が見えるような内容となっています。
目次
代替テキスト 抄録とは?役割と重要性
学会の抄録(Abstract)とは、論文や研究発表の要点を凝縮した重要な文書です。学会参加者は抄録集を参考に、興味のある発表を選択します。そのため、抄録は論文全体を読むべきかを判断するための重要な材料となります。
抄録には以下の内容が含まれます。
抄録は、研究者が成果を広く周知するために不可欠なツールです。特に学会や論文投稿の際には、審査員や編集者が研究の価値を短時間で判断するための重要な資料となります。さらに、他の研究者が関連文献を探す際の指標としても機能し、学術コミュニティ全体の知識共有を促進する役割を果たします。
抄録は、論文が掲載される学術雑誌のデータベースや検索エンジンにも登録されます。そのため、質の高い抄録は、より多くの研究者の目に触れ、論文の被引用数を高めることにも繋がるのです。
各学会や出版物で抄録の形式が規定されており、研究者はこれらのガイドラインに沿った効果的な抄録の作成が求められます。抄録は研究の「顔」とも言える存在であり、その質が研究全体の評価に影響するのです。
学術論文における「抄録」は、「論文」の内容を短くまとめたものであり、「要旨」は同じ意味で使われることが多いです。ただし、学会によっては呼び方が異なる場合があります。
「論文」は研究の成果を詳細にまとめたものであり、通常数千字以上の長さがあり、研究の深い理解と批評的検討を可能にします。以下の構成要素を含みます。
「要旨」は抄録と似ていますが、より簡潔な形式で論文の核心を伝えます。通常200〜400字程度で、論文の主要な点を強調します。英語では両者ともに”abstract”と表現されることが多く、実質的に同じ機能を果たすことも多いです。
一方、「抄録」は論文の主要なポイントを簡潔にまとめたものであり、論文全体を読むかどうかの判断材料として用いられます。
「論文」と「抄録」の関係は、辞書的な意味での「抄録」にも表れています。「抄録」は「原文から必要な部分だけを書き抜くこと」を意味し、英語ではAbstractと訳されます。 つまり、「抄録」は「論文」のエッセンスを抽出したものと言えるでしょう。
抄録には複数の種類があり、研究の目的や読者層によって使い分けます。主な種類は以下の3つです。
指示抄録は、原論文を読むべきかどうかを判断するための簡潔な要約です。主に文献検索の際に用いられ、論文がどのようなテーマを扱っているかを簡潔に示し、具体的な研究内容や結果には触れません。
報知抄録は、原文献の内容を具体的に伝えるもので、より詳細な情報を含みます。この種類の抄録は、研究の背景、目的、方法、結果と結論を簡潔にまとめ、読者が原論文を読まずとも研究の全体像を把握できるようにするものです。
評価抄録は、原文の内容に加えて抄録作成者の評価や批評を含みます。主に文献レビューや批評的な文脈で使用されます。
抄録の種類の選択は、投稿先の要求や研究の性質に応じて行います。例えば、学会発表では通常、報知抄録が求められますが、文献データベース用には指示抄録が適している場合があります。適切な種類を選ぶことで、研究成果を効果的に伝達し、読者の理解を促進できるのです。
代替テキスト 効果的な抄録の書き方
効果的な抄録を作成するには、まず構成要素を理解しましょう。多くの学術分野で広く採用されているIMRAD形式は、抄録の構造化に有効なアプローチです。
IMRAD形式は以下の要素で構成されます:
この形式に従うことで、読者は研究の全体像を効率的に把握できます。
抄録は、これらの要素をコンパクトにまとめ、以下の項目で構成されます。
これらの要素をバランスよく記述することで、読者は短時間で研究内容を理解し、その価値を判断できます。 各項目の具体的な書き方については、後の章で詳しく解説しますので参照ください。
抄録は、限られた文字数で研究の全体像を伝えるので、各項目を効果的に記述することが重要です。 ここでは、各項目の書き方のポイントと具体例を紹介します。
1. 背景
2. 目的
3. 方法
4. 結果
5. 考察
6. 結語
これらのポイントを踏まえ、各項目を効果的に記述することで、読者の興味を引き、研究内容を正しく理解してもらうことができます。
学会発表の抄録は、数多くの研究の中から自身の研究に興味を持ってもらうための重要なツールです。 読者を惹きつけるためには、簡潔で明瞭な文章表現に加えて、いくつかの効果的な表現方法を用いましょう。
これらの表現方法を効果的に活用することで、読者の関心を引きつけ、自身の研究に興味を持ってもいましょう。
代替テキスト 抄録作成の注意点
学会発表における抄録には、多くの場合、文字数制限 が設けられています。この制限は学会や募集要項によって異なり、例えば400字以内と指定されることもあります。文字数制限を超過すると、抄録が採択されない場合もありますので、必ず確認しましょう。
文字数が制限されている中で効果的に情報を伝えるためには、抄録全体の 構成比率 を意識することが重要です。一般的に、抄録は「背景」「目的」「方法」「結果」「考察」「結論」の6つのパートで構成されます。しかし、全ての項目を均等に扱う必要はなく、文字数制限に応じて適切な比率で記述してください。
例えば、「背景・目的、方法、結果、考察・結論」の4つのパートに分け、それぞれの比率を「2:3:4:1」とするのが黄金比率であるという考え方もあります。この考え方では、「方法」と「結果」により多くの文字数を割きます。ただし、この比率は研究分野や抄録の種類によって多少変動します。
文字数が足りない場合は、「考察」や「結語」を省略できる場合もありますが、研究の主要な成果を伝えるために「結果」は必ず記述する必要があります。
このように、限られた文字数の中で効果的に研究内容を伝えるためには、それぞれの学会の規定をよく確認し、適切な構成比率で記述しましょう。
学術論文の抄録においては、一般的に引用は使用しません。これは、抄録は論文本文とは独立した著作物とみなされ、データベースなどに収録される際に本文中の参考文献リストを参照できない場合があるためです。
ただし、以下のような特定の状況下では例外も存在します:
どうしても引用が必要な場合は、引用箇所の明確化と参考文献リストの作成が必要です。
引用箇所の明確化
参考文献リストの作成
このように、抄録における引用は、独立した著作物としての性格を考慮し、必要最小限に留めることが重要です。しかし、引用が必要な場合は、上記のようなルールに従って、読者が引用元を確認できるように配慮してください。
学会抄録は限られた文字数で研究の要点を伝える重要な文章であるため、誤解を招く表現や曖昧な記述は避けなければなりません。 よくある間違いとして、記述が「ですます調」になっていることが挙げられます。 学術論文では客観的な記述が求められるため、抄録においても「である調」を用いるようにしましょう。
また、体言止めの多用も避けるべきです。 体言止めは文章のつながりを分かりにくくし、抄録の内容が正確に伝わらない可能性があります。 例えば、「新規生物学的製剤によるアトピー性皮膚炎の治療効果の30代男性患者における検証。」という体言止めの文は、「新規生物学的製剤によるアトピー性皮膚炎の治療効果を30代男性患者において検証した。」のように、用言で終わる文に修正すると、より明確な表現になります。
さらに、ChatGPTなどの生成AIに抄録作成を指示する際に、漠然とした指示(プロンプト)を出すこともよくある間違いです。 例えば、「アトピー性皮膚炎の患者に生物学的製剤を使ったら良くなったので、そのデータをまとめて報告してください。」といったプロンプトでは、生成AIは具体的な内容を理解できないので使えるものはできません。プロンプトを出す際には、
などを具体的に伝え、生成AIが適切な抄録を作成できるように導きましょう。その上で、作成物は人間の目で厳密にチェックすることが必要です。
このように、学会抄録を作成する際には、表現や記述方法、生成AIへの指示の出し方など、様々な点に注意する必要があります。 明確で誤解のない記述を心がけ、読者に研究内容を正しく伝えられる抄録を目指しましょう。
代替テキスト 抄録作成を支援するツールとサービス
現在、日本語の抄録を直接作成する専用のソフトウェアは見当たりません。しかし、英語抄録を作成したり、抄録作成プロセスの一部を支援するツールはいくつか存在します。
その一部を紹介します:
これらのツールは抄録作成の一部の作業を効率化できますが、抄録の内容そのものを自動的に作成する機能は現時点では限られています。研究者は依然として自身で抄録の主要な内容を作成する必要があるのです。
これらのツールを使用する際には以下の点に注意してください:
これらのツールとサービスを活用することで、抄録作成が効率的かつ効果的になります。研究者はこれらのリソースを利用して、自身の研究成果をより良く伝えるための準備を整えましょう。
英文で抄録を作成する場合、文法や表現の誤りは、研究内容の信頼性を損なう可能性があります。英文校正サービスを利用することで、ネイティブチェックを受け、より質の高い英文抄録を作成できます。
英文校正サービスでは、専門分野に精通したネイティブ校正者が、
などをチェックし、修正や改善の提案を行い、抄録の質を大幅に向上させる機能を提供します。
ThinkSCIENCE は、英文校正サービスを提供する企業の一つです。 このサービスは、研究者向けに、論文や抄録などの英文校正を提供しています。エナゴ社のサービスでは、博士・修士号を有する英語ネイティブの専門家が校正を担当し、医歯薬学、工学、経済学など、幅広い分野に対応しています。また、エディテージ社のサービスでは、単なる文法チェックにとどまらず、論文構成や内容の改善提案まで行う高度な校正オプションも提供されています。
英文校正サービスを利用することで、英文の質を高め、国際的な学会や学術誌で研究成果をより効果的にアピールすることができます。
近年、AI技術の進歩により、AIを活用した抄録生成サービスが登場しています。これらのサービスは、大量の論文データを学習したAIが、入力された論文の内容に基づいて、自動的に抄録の草案を作成します。
AI抄録生成サービスは、
といったメリットがあります。
エルゼビア社が開発した「Scopus AI」は、世界最大級の抄録・引用文献データベースScopusと連携し、信頼性の高い要約を生成します。このサービスは、研究トピックの簡潔なスナップショットを提供し、関連する文献へのリンクも提示します。
医学界新聞の記事では、医師向けにChatGPTを使った抄録作成の方法を紹介しています。記事では、ChatGPTに抄録を作成してほしい論文の内容を伝えると、AIが抄録の草案を作成します。そして、その草案に対して、医師が具体的な指示を出すことで、より完成度の高い抄録を作成できると説明しています。
ただし、AI生成抄録の利用には注意が必要です。研究者は生成された内容を慎重に確認し、必要に応じて修正を加える必要があります。また、学会やジャーナルによってはAIツールの使用に関するガイドラインが設けられている場合もあるため、事前に確認することが重要です。
学会抄録の作成にあたり、構成や書き方、注意点など、様々な疑問や悩みをお持ちだったのではないでしょうか? 抄録は研究の「顔」として重要な役割を果たし、その効果的な作成は研究成果の発信に大きく貢献します。
この記事では、抄録の定義と役割、論文や要旨との違い、IMRAD形式に基づく構成要素、効果的な書き方、さらには作成を支援するツールやサービスまで、抄録作成の基本から実践的なテクニックまでを幅広く解説しました。
抄録作成は確かに挑戦的なタスクですが、本記事で紹介した指針や注意点を参考にしながら、自身の研究の本質を簡潔に伝えることを心がけてください。一つ一つの抄録作成が、皆さまの研究コミュニケーション能力を高める貴重な機会となることでしょう。
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東大応用物理学科卒業後、ソニー情報処理研究所にて、CD、AI、スペクトラム拡散などの研究開発に従事。
MIT電子工学・コンピュータサイエンスPh.D取得。光通信分野。
ノーテルネットワークス VP、VLSI Technology 日本法人社長、シーメンスKK VPなどを歴任。最近はハイテク・スタートアップの経営支援のかたわら、web3xAI分野を自ら研究。
元金沢大学客員教授。著書2冊。